業務改善
パソコンが苦手な社員がいても、システムは定着するか|決めるのは腕前ではなく「入力の手間」
「うちの社員にはシステムは使えない」。導入をためらう理由の定番ですが、定着を決めるのは社員のITの腕前ではなく、入力の手間と画面の作りです。システムが使われなくなる5つのパターン、パソコンが苦手な人でも使える作りの5つの条件、導入するときにやっておくべき3つのことを整理します。

「うちの職人は、スマホでLINEを見るのがやっと」「事務の人は、パソコンの操作に自信がない」。システムを入れたい気持ちはあっても、使えない人が出たら、結局は紙に戻るのではないか。そう考えて、導入をためらっている社長は少なくありません。以前ソフトを入れてみたものの、使ったのは事務の一人だけで、いつの間にか元のやり方に戻っていた、という経験がある会社もあるでしょう。
先に結論を書きます。システムが社内に定着するかどうかを決めるのは、社員のITの腕前ではありません。入力の手間と、画面の作りです。LINEで写真を送れる人なら使えるシステムは作れますし、逆にパソコンが得意な社員ばかりの会社でも、手間の多いシステムは使われなくなります。この記事では、システムが使われなくなる5つのパターン、パソコンが苦手な人でも使える作りの条件、そして導入するときにやっておくべきことを整理します。
使われなくなる原因は、社員ではなく作りの側にある
考えてみてください。現場の職人も、年配の事務員も、毎日のようにLINEでメッセージを送り、写真を撮って共有し、スタンプを押しています。それはもう、立派なITの操作です。つまり、操作する力が足りないわけではありません。システムが使われなくなるのは、使うのが面倒だから、意味が分からないから、使っても自分が楽にならないから。理由は、ほとんどがこのどれかです。
| 使われなくなるパターン | 現場で起きていること | 本当の原因 |
|---|---|---|
| ① 入力が多すぎる | 日報1枚に10個以上の項目。疲れて帰ってきた現場は後回しにし、週末にまとめて適当に入れる | 事務所や社長が欲しい情報を、全部現場に入れさせている |
| ② 言葉が分からない | 「ステータス」「マスタ」など、普段使わない言葉が並び、どこを押せばいいか分からない | ソフトの言葉のままで、自社で使っている言葉になっていない |
| ③ 二度手間になる | システムに入れたうえで、紙やExcelにも同じことを書かされる | 古いやり方を残したまま、新しいやり方を足している |
| ④ 入れても自分は楽にならない | 入力しても、自分の仕事は何も変わらない | 入力した人ではなく、事務所や社長だけが得をする作りになっている |
| ⑤ 一度つまずくと怖くなる | 間違えて消してしまった、途中で画面が消えた。その経験から、触るのが怖くなる | 間違えても戻せる、途中で止めても残る作りになっていない |
この中で、いちばん見落とされやすいのが④です。現場が入力したデータで楽になるのが事務所や社長だけだと、現場にとってシステムは「やらされ仕事」になります。反対に、入力した本人にも見返りがある作りにすると、言われなくても使われるようになります。たとえば、日報を入れておけば月末の作業報告書が自動でできあがる。明日の現場の予定と地図が、スマホでいつでも見られる。自分の仕事が楽になると分かれば、人は自然と使い始めます。
そして①〜③は、既製のソフトで起きやすい問題でもあります。月額で使う既製のソフトは、多くの会社で使えるように作られているため、入力の項目や画面の言葉を自社に合わせて変えられる範囲に限りがあるからです。この構造は、既存SaaSが現場に定着しない理由で詳しく書いています。
パソコンが苦手な人でも使える作りの、5つの条件
では、パソコンやスマホが得意でない人でも使えるシステムとは、どんな作りなのか。導入を検討するときは、次の5つを確かめてください。
- スマホのホーム画面から、アプリのように1回で開ける。毎回ホームページのアドレスを探したり、ログインし直したりしなくていい。
- 入力は「選ぶ」が中心で、文字を打つのは最小限。現場の名前やお客さんは一覧から選び、日付は最初から今日が入っている。
- 画面の言葉が、自社で普段使っている言葉になっている。ソフトの言葉ではなく、社内で「現場」と呼んでいるなら「現場」と書いてある。
- 1つの画面で、やることは1つだけ。日報の画面には日報のことだけがあり、関係のないボタンが並んでいない。
- 間違えても戻せて、途中で止めても消えない。押し間違いを怖がらずに触れる。
この5つは、パンフレットや説明だけでは分かりません。いちばん確実なのは、実際の画面を、社内でいちばんパソコンが苦手な人に触ってもらうことです。その人が説明なしで日報を1枚出せるなら、社内の誰でも使えます。業者に「この画面、うちの社員でも使えますか」と聞くより、ずっと確かな答えが出ます。
導入するときに、やっておくべき3つのこと
作りが良くても、入れ方を間違えると定着しません。導入するときは、次の3つをやっておいてください。
1つめは、作る段階から現場の人を1人巻き込むことです。社長と事務所だけで決めたシステムは、現場から見ると「上から降ってきたもの」になります。現場でいちばん忙しい人か、いちばんパソコンが苦手な人に、途中の画面を触ってもらい、「ここが面倒」「この言葉は分からない」を言ってもらう。その声が入ったシステムは、現場にとって「自分たちの意見で作ったもの」になります。
2つめは、紙やExcelをやめる日を決めることです。「慣れるまでは紙と両方で」という期間を長く置くと、③の二度手間がそのまま続き、結局は慣れた紙のほうに戻っていきます。両方を使う期間は短く区切り、その日からはシステムだけにする、と社長が決めて伝えることが大切です。
3つめは、使い始めてから出てくる「使いにくい」を、すぐ直せる形にしておくことです。システムが定着するかどうかは、導入した日ではなく、使い始めてからの最初の数か月で決まります。この時期に出てくる不満は、文句ではなく、直すべき点を教えてくれる材料です。それなのに、直すたびに見積もりが必要で、反映まで何週間もかかるなら、現場はすぐにあきらめてしまいます。使い始めた後に、誰がどう面倒を見るのかは、IT担当がいない会社の、業務システム導入で詳しく整理しています。
「うちの社員には無理」と決める前に
「うちはアナログな会社だから」「年配の社員が多いから」。システム化をあきらめる理由として、よく聞く言葉です。でも、ここまで見てきたように、システムが使われるかどうかを決めているのは、社員の腕前ではなく、システムの作りと入れ方です。社員を変えようとする前に、社員が無理なく使える作りを選ぶ。それができれば、パソコンが苦手な人が多い会社でも、システムはきちんと定着します。
よくある質問
- Q.年配の社員が多い会社でも、システムは使えますか?
- A.使えます。毎日LINEでやりとりできているなら、操作する力は十分にあります。大切なのは、入力する項目を少なくすること、画面の言葉を社内の言葉にすること、文字を打たずに選ぶだけで済むようにすることです。この3つがそろっていれば、年齢に関係なく使われるようになります。
- Q.スマホを持っていない社員がいる場合は、どうすればいいですか?
- A.会社で共用のスマホやタブレットを用意する、事務所のパソコンから入力できるようにする、といった方法があります。全員が同じ使い方をする必要はありません。誰が、どこで、何を使って入力するのかを最初に決めておけば、スマホを持っていない人がいても運用できます。
- Q.以前ソフトを入れて失敗しました。また失敗しませんか?
- A.まずは、前回なぜ使われなくなったのかを振り返ってみてください。入力が多すぎた、言葉が分からなかった、二度手間になった、入力しても自分が楽にならなかった、間違えるのが怖かった。多くの場合、このどれかに当てはまります。原因が分かれば、次に選ぶときに何を確かめればいいかがはっきりします。
- Q.社員に使ってもらうために、研修は必要ですか?
- A.長い研修が必要なシステムは、そもそも作りに問題がある可能性があります。理想は、最初に10分ほど一緒に触れば、あとは説明なしで使える作りです。研修に頼るより、社内でいちばんパソコンが苦手な人でも迷わず使える画面になっているかを、導入前に確かめるほうが確実です。
- Q.どうしても使ってくれない社員がいたら、どうすればいいですか?
- A.叱る前に、なぜ使わないのかを聞いてください。面倒なのか、言葉が分からないのか、使っても楽にならないのか。理由は、ほとんどの場合、システムの直すべき点を教えてくれます。その声をもとに画面や入力の項目を直せば、ほかの社員にとっても使いやすいシステムになります。
パソコンが苦手な社員がいることは、システムをあきらめる理由にはなりません。使われなくなる原因のほとんどは、入力の手間、分からない言葉、二度手間、見返りのなさ、間違える怖さといった、作りの側にあります。それを避けた作りを選び、現場の声を入れて作り、紙をやめる日を決め、使い始めてからの不満をすぐ直す。この順番で進めれば、ITが苦手な人が多い会社でも、システムは毎日の仕事の道具になります。