業務改善
IT担当がいない会社の、業務システム導入|「誰が面倒を見るか」から考える
「うちにはITに詳しい人がいないから」。システム化を先送りする理由の定番ですが、本当に必要なのはIT担当ではなく、導入後に誰がシステムの面倒を見るのか、という責任の置き場所の設計です。IT担当がいないことで実際に起きること、置き場所の4つの選択肢、契約前に確認すべきことまで整理します。

「うちにはITに詳しい人がいないから」。業務システムの導入を先送りする理由として、これほどよく聞く言葉はありません。エクセルと紙の管理に限界を感じている。システム化した方がいいことも分かっている。でも、入れた後に誰が面倒を見るのか。設定は誰が触るのか。トラブルが起きたら誰が対応するのか。それを考えると、足が止まる。
この不安は正当です。そして先に結論を言うと、答えは「IT担当を雇うこと」ではありません。必要なのは、導入の前に「このシステムの面倒を、誰が見るのか」という責任の置き場所を決めておくことです。この記事では、IT担当がいないことで実際に何が起きるのか、それでも人を雇うのが答えにならない理由、置き場所の4つの選択肢、そして契約前に確認すべきことまでを整理します。
「IT担当がいない」で、実際に何が起きるか
まず、現実に起きることを見ておきます。導入の前の段階では、比較検討が進みません。ベンダーの説明や資料に出てくる言葉が分からず、自社の業務をシステムの要件に翻訳できる人もいない。結果、検討が止まるか、ベンダーの提案をそのまま受け入れるしかなくなり、見積もりが適正なのかも判断できないまま契約することになります。
もっと深刻なのは、導入の後です。ちょっとした設定の変更ができない。項目を一つ足したいだけなのに、誰も触り方が分からない。不具合が起きても、何をベンダーに伝えればいいのか分からず、復旧までの間、業務が止まる。そして一番よくあるのが、導入時に頑張って覚えた担当者が辞めた瞬間、システムがブラックボックスになるパターンです。誰も設定の意味が分からず、怖くて触れない。触れないから業務の変化に合わせられず、現場は少しずつExcelに戻っていく。数年後には、月額だけ払い続けている使われないシステムが残ります。
つまり「IT担当がいない」ことの本当のリスクは、導入できないことではなく、導入した後に、誰も面倒を見ない状態でシステムが放置されることにあります。
それでも、「IT担当を雇う」が答えにならない理由
では専任のIT担当を雇えばいいかというと、10〜50名規模の会社では、これはほとんどの場合、現実的ではありません。理由は単純で、割に合わないからです。IT人材の採用は今どの業界でも難しく、採れたとしても正社員一人分の人件費が毎年かかります。一方で、この規模の会社にあるIT業務の量は、正社員一人分もありません。システムの設定変更やトラブル対応は、毎日発生する仕事ではないからです。
さらに、一人だけ雇えたとしても、今度はその一人に全部が集中します。世の中で「ひとり情シス」と呼ばれる状態です。その人が休めばITが止まり、辞めれば会社のシステムの知識が丸ごと消える。属人化の問題を解決するために雇ったはずの人が、最大の属人化リスクになる。だからこの問題は、「人を雇うかどうか」ではなく、「面倒を見るという役割を、どういう形で確保するか」という設計の問題として考える必要があります。
導入の前に決める。「面倒を見る責任」の置き場所は4つ
システムの面倒を見る責任の置き場所は、大きく4つに分かれます。それぞれの現実を、正直に書きます。
| 置き場所 | よくある形 | 現実に起きること |
|---|---|---|
| ① 自社の誰かが兼任する | 「パソコンに詳しいから」と総務や若手に任せる | 本人の本来業務を圧迫し、その人が辞めた瞬間にブラックボックス化する。最も多く、最も壊れやすい形 |
| ② 外部のIT顧問・保守契約を結ぶ | 月額でIT相談や保守を外部に依頼する | 相談相手ができるのは大きい。ただし顧問は自社の業務の中身までは知らないので、「何を変えたいか」の整理は自社側に残る |
| ③ SaaSを入れて、運用は自社でやる | 既製のクラウドサービスを契約し、設定・活用は自分たちで | ベンダーが提供するのは道具とマニュアルまで。自社業務への当てはめと運用設計は買った側の仕事として残る |
| ④ 運用まで含まれたサービスを選ぶ | システムの提供と、導入後の面倒を見ることがセットになった契約 | 月額は単体ツールより上がるが、「誰が面倒を見るか」問題が契約で解決される。中身の確認が重要(後述) |
どれが正解かは会社によりますが、一番避けるべきなのは、①を「決めた」つもりになっているケースです。誰かがなんとなく詳しいから任せる、というのは、責任の置き場所を決めたのではなく、押し付けただけです。その人の退職とともにシステムが死ぬ構造は、何も解決していません。また、③の形については注意が必要です。SaaSというビジネスモデルは、構造上、一社ごとの運用設計まで踏み込まないようにできています。ベンダーが悪いのではなく、そういう売り方だから安いのです。この構造については既存SaaSが現場に定着しない理由で詳しく書いています。
「面倒を見る」の中身を、4つに分解する
置き場所を決めるには、そもそも「システムの面倒を見る」とは何をすることなのかを、分解しておく必要があります。中身は4つです。
| 面倒を見るの中身 | 具体的には | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 使い方の対応 | 現場からの「これどうやるの」に答える | 問い合わせ窓口はどこか。マニュアルを渡されて終わりか、聞ける相手がいるか |
| 不具合への対応 | 動かない・おかしいときの切り分けと復旧 | 誰に連絡するのか。どのくらいの速さで動いてくれるのか |
| 業務の変化への改修 | 項目の追加、フローの変更、新しい業務への対応 | 改修は月額に含まれるのか、都度見積もりか。頼んでから反映までどれくらいか |
| データと安全の管理 | バックアップ、権限、退職者のアカウント処理 | 誰の責任として設計されているか。自社で意識しなくても回る形か |
この4つのうち、見積書や料金表に書かれているのはごく一部です。特に3つめの「業務の変化への改修」は、契約時にはほとんど話題にならないのに、導入から1年経つ頃には一番重要になっている項目です。会社の業務は変わり続けます。取引先が変わり、人が変わり、やり方が変わる。そのたびにシステムを合わせられるかどうかが、システムが使われ続けるか、Excelに戻るかの分かれ目になります。契約の前に、この4つがそれぞれ「誰の責任で、いくらの中に含まれているのか」を聞いてください。この質問に明確に答えられない相手との契約は、面倒を見る人が決まっていないまま始まる契約です。
「IT担当がいないから導入できない」は、実は逆
最後に、この記事でいちばん伝えたいことを書きます。IT担当がいない会社ほど、システム化の恩恵は大きい、ということです。理由は単純で、ITの仕組みで吸収できるはずの作業を、いま全部、人の手と時間で吸収しているからです。転記、集計、突き合わせ、探し物。詳しい人がいる会社なら部分的に自動化されているような作業が、丸ごと現場の負担として残っている。つまり、伸びしろが一番大きい。
そして、もうひとつ。システム導入で本当に重要な知識は、ITの知識ではなく、業務の知識です。自社の仕事がどう流れていて、どこで詰まっていて、何が変わればみんなが楽になるのか。これを知っているのは、ITに詳しい誰かではなく、毎日その業務をやっているあなたたちです。ITの言葉と業務の言葉のあいだを翻訳するのは、本来、作り手側の仕事です。だから、探すべきなのは「IT担当の代わり」ではなく、業務の話をそのまま聞いて、システムの形に翻訳してくれて、導入した後も面倒を見続けてくれる相手です。それが見つかるなら、社内にITに詳しい人は、いなくて構いません。なお、システムを「作って終わり」にしない考え方は、補助金で業務システムを作る前に|制度は「作り切り型」を前提にしているでも、別の角度から書いています。
よくある質問
- Q.IT担当がいなくても、業務システムは導入できますか?
- A.できます。導入の可否を分けるのはIT担当の有無ではなく、「導入後に誰がシステムの面倒を見るのか」が決まっているかどうかです。使い方の対応、不具合対応、業務の変化に合わせた改修、データの管理。この4つの責任の置き場所を契約前に決めておけば、社内にITに詳しい人がいなくても運用は回ります。
- Q.社内の誰かに兼任でシステム担当を任せるのは、ダメですか?
- A.窓口役として一人決めておくこと自体は有効です。危険なのは、「パソコンに詳しいから」という理由で設定やトラブル対応まで丸ごと任せることです。本来業務を圧迫する上に、その人が辞めた瞬間にシステムがブラックボックスになります。兼任者の役割は社内の取りまとめまでとし、技術的な面倒はベンダー側の責任として契約に含めるのが現実的です。
- Q.小さな会社でも、IT人材を採用したほうがいいですか?
- A.10〜50名規模では、ほとんどの場合、割に合いません。IT業務の量が正社員一人分に満たない上、一人だけの担当者はそれ自体が属人化のリスクになります。人を雇うのではなく、外部の保守契約や、運用まで含まれたサービスの形で「面倒を見る役割」を確保するほうが、費用も継続性も現実的です。
- Q.導入後のトラブルや設定変更は、誰に頼めばいいのですか?
- A.それが契約前に確認すべきことです。問い合わせ窓口はどこか、不具合のときは誰がどのくらいの速さで動くのか、項目追加のような改修は月額に含まれるのか。この質問に契約前から明確に答えられる相手を選んでください。マニュアルを渡して終わり、改修は都度高額な見積もり、という形だと、IT担当のいない会社では運用が止まります。
- Q.「運用まで含まれたサービス」は、どう見分ければいいですか?
- A.料金に何が含まれているかを、4つの観点で聞いてください。使い方の質問対応、不具合対応、業務の変化に合わせた改修、データやアカウントの管理です。特に「改修が月額に含まれるか」は重要で、ここが含まれていれば、業務が変わってもシステムを合わせ続けられます。含まれていなければ、変化のたびに費用と交渉が発生し、やがてシステムが業務とズレていきます。
IT担当がいないことは、業務システムをあきらめる理由にはなりません。ただし、「導入後に誰が面倒を見るのか」を決めずに入れると、詳しい人がいないことのリスクが、導入後に全部噴き出します。責任の置き場所を4つの選択肢から選び、「面倒を見る」の中身4つがそれぞれ誰の責任かを契約前に確認する。この2つをやってから入れれば、ITに詳しい人がいない会社でも、システムは回り続けます。そしてそういう会社ほど、システム化で楽になる余地は大きいのです。