費用・料金

SaaSとオーダーメイド、本当に安いのはどっちか|業務の独自性で答えが変わる理由

SaaSとオーダーメイド開発、本当に安いのはどちらかを、業務の独自性という軸から整理します。それぞれの失敗パターン、SaaSのカスタマイズ費の罠、見落とされやすい運用負荷まで含めた、本当の費用比較の考え方が分かります。

業務システムを検討するとき、SaaSとオーダーメイド開発のどちらを選ぶか、という分かれ道に立つことが多いです。月額数千円から使えるSaaSと、数百万から数千万かかるオーダーメイド。この金額差だけ見れば、答えは決まったように見える。SaaSのほうが圧倒的に安い、と。

ただ、何社かの導入を見ていくと、その単純な比較が後で覆ることが珍しくないです。SaaSを選んだ会社が3年後に、結局オーダーメイドに移行する。あるいは、SaaSを使い続けているけれど、現場が無理を抱えて、別のExcelやスプレッドシートで補い続けている。逆に、オーダーメイドを選んだのに使えていない、というケースもある。

費用の比較は、表面の金額だけでは決まりません。本当に必要なのは、自社の業務がどれだけ標準的か、それともどれだけ独自性が強いか、という見極めです。今回はこの見極めの軸を、SaaSとオーダーメイドそれぞれの失敗パターンと、見落とされやすい費用項目から整理します。先に、両者の費用構造を一枚にまとめておきます。

SaaSとオーダーメイド開発の費用構造の比較(規模・要件で大きく変動するため、構造理解のための目安・2026年時点)
比較項目汎用SaaSオーダーメイド(一括開発)オーダーメイド(月額制)
初期費用0〜数十万円300万〜1,500万円0円〜
継続費用月額数千〜数万円×ユーザー数保守費として年間開発費の10〜15%月額3万〜10万円程度
カスタマイズ・追加開発タイプ次第で数百万規模に膨らむことがある都度見積もり(追加開発費)月額に含まれる範囲が多い
5年総額の目安60万〜600万円+カスタマイズ費500万〜2,500万円180万〜600万円
業務との適合業務をシステムに合わせるシステムを業務に合わせるシステムを業務に合わせる
業務を合わせる運用負荷発生しやすい(見積書に載らない・本文参照)原則発生しない原則発生しない

SaaSが安く見えるのは、初期費用だけを比較しているから

まず、SaaSとオーダーメイドの金額差の正体を、もう少し細かく見ます。SaaSは月額制で、初期費用がほぼかからないものが多い。月額数千円から数万円で始められる。これに対してオーダーメイド開発は、初期費用で数百万から数千万、そこに保守費が継続的にかかる。この比較を単純に並べると、SaaSが何十倍も安く見える。ここで多くの検討が止まります。「SaaSのほうが圧倒的に安いから、SaaSにしよう」と。

ただ、この比較には抜けている要素があります。カスタマイズ費、業務をシステムに合わせるための調整コスト、SaaSで足りない部分を補う追加ツールの費用、現場が無理を抱えながら使い続ける運用負荷、こういったものが金額の比較表には載っていません。とくに追加ツールは積み上がりやすく、気づけば複数のSaaSを並行契約していることも珍しくない。この構造は複数のSaaSを契約している会社へ|その月額、合計するといくらになっていますかで別途書きました。3年、5年と使い続けた総コストで見ると、初期の比較とは違う景色になることがあります。

それでも、従来のオーダーメイド開発の数百万から数千万という金額と並べれば、SaaSのほうが安いのは確かです。問題は、「安いから合っている」と「安いから選んだ」が違うことです。

SaaSを選んで失敗するパターン

SaaSを選んだ会社が陥りやすい状況を、いくつか整理します。ひとつは、UIや機能が自社のためのものではないことから生じる、無理やひずみです。SaaSは多くの会社で使えるように汎用的に作られているので、特定の会社の業務に完璧にフィットすることはありません。どこかで業務のほうをSaaSに合わせる調整が発生します。この調整が小さければ問題ありませんが、業務の根幹に関わる部分でズレが生じると、現場の負担が日々積み上がります。この「合っていない」という感覚の正体は、SaaSがどうしても業務に合わないと感じたらで詳しく書いています。

もうひとつは、SaaSで管理しきれない項目を、結局ExcelやGoogleスプレッドシートで補い続けるケースです。SaaSに入らない情報、SaaSでは表現できない関係性、SaaSにはない集計軸、こういったものが業務にあると、それらを外部のシートで持つことになります。一つのシステムで業務が完結することを期待してSaaSを入れたのに、SaaSと複数のスプレッドシートが並行で動く状態になり、情報が分散します。これは、最初の問題よりも深刻です。情報が二重管理になり、整合性のチェックに人の時間が取られます。Excel管理の限界から抜け出すためにSaaSを入れたはずが、形を変えた同じ問題に戻っている。

そして、これらの問題が積み重なると、現場のほうがSaaSを使わなくなっていきます。「使いにくい」「自分たちの仕事に合っていない」という感覚が広がると、システムを介さない作業が増えていく。月額を払い続けているのに、機能が活用されていない状態になります。

ここで起きていることを別の角度から言うと、SaaSは「最大公約数の機能」を提供しているということです。多くの会社で使える形にするため、どの会社にとっても満点ではない、それなりの機能が並んでいる。自社の業務がたまたまその最大公約数に近ければ問題ないですが、独自性のある部分があるほど、その部分はSaaSでは表現できません。表現できない部分は、外で持つしかなくなる。これがSaaS導入後にExcelやスプレッドシートが減らない構造的な理由です。

オーダーメイドを選んで失敗するパターン

逆に、オーダーメイドを選んで失敗するケースもあります。こちらは、SaaSの失敗とは違う種類の難しさを持っています。中小企業の現場でいちばん多いのは、ITの専門家が社内にいないために、そもそも理想のシステムがどうあるべきか、ITで何ができるのか、というイメージを持てないまま発注に進んでしまうケースです。何も知らない発注側に「どうしたいですか」と聞いても、本人にとって正解の出しようがない。結果として、機能としては備わっているけれど使えない、あるいは使いにくいシステムが完成します。

このパターンの厄介なところは、納品時点では「依頼通りに作られている」ことです。発注側が要望したものが、そのまま形になっている。だから、誰かが手を抜いたわけでもないし、品質が低いわけでもない。それでも、実際に使い始めると「思っていたものと違う」「こうしておけばよかった」が次々と出てきます。

オーダーメイド開発の場合、完成後の「こうしておけばよかった」は、ほぼ必ず出ます。これは発注側の責任でも、開発側の責任でもなく、業務を完璧に予測してから設計するのが、そもそも難しいからです。問題は、その「こうしておけばよかった」が、最初の設計の質によって大きさが変わることです。受託側が業務理解に時間をかけて、本当に必要な機能を見極めてくれていれば、後悔は小さい。表面の要望をなぞって作っただけだと、後悔は大きく、しかも追加開発費という形でコストが発生します。

そして、ここに人件費の高さが乗ります。オーダーメイドはエンジニアの工数を直接買う形なので、機能を増やせば工数が増え、コストが増える。さらに、業務理解が浅いまま作られた機能は使われないまま残るので、払ったコストに対する成果が小さい。費用がどう積み上がるかの構造は、業務システム開発の費用相場と、見積もりが膨らむ仕組みで詳しく書いています。

SaaSの「カスタマイズ費」の罠

ここで、SaaSとオーダーメイドの比較に大きく関わる、見落とされやすい論点があります。SaaSのカスタマイズ費です。SaaSと一口に言っても、性格はかなり違います。汎用的に作られていて、機能を組み合わせて使うタイプのSaaSは、自社の業務に合わせるためにカスタマイズが必要になることがあります。汎用SaaSの代表例として知られるサービスの多くがこのタイプで、カスタマイズを進めていくと、結局フルオーダーメイドのシステム開発と変わらない費用になることがあります。

一方で、特定の業界や業務に特化して作られたSaaSは、性格が違います。たとえば人材業界向けのHRBCのような、業界特化型のサービスは、業界共通の業務フローがベース機能としてあらかじめ作り込まれています。そのため、汎用SaaSのような大規模カスタマイズを前提とせずに、オプション機能の追加や軽微な調整で実用に耐えるケースが多く、結果としてカスタマイズコストが汎用SaaSほど膨らみにくいという特徴があります。

ここを混同したまま「SaaSは安い」と考えると、後で予算を大きく超過することになります。汎用SaaSを大規模カスタマイズで使うくらいなら、最初からオーダーメイドのほうが、結果的にコストが収まることもある。SaaSというカテゴリで括らず、自社が検討しているサービスが、どちらのタイプに近いかを見極めるのが第一歩です。

SaaSで足りる業務、オーダーメイドが必要な業務

では、自社にとってどちらが向いているか、どう判断するか。ここで効くのが、業務の独自性という軸です。業界全体で標準化されている業務、法律や慣習で形が決まっている業務、シンプルで広がりの少ない業務は、SaaSとの相性が良いことが多い。逆に、自社独自の運用ルール、業界の中でも特殊なフロー、複数の業務が複雑に絡む構造を持つ会社は、オーダーメイドのほうが結果的に安く済むことがあります。

SaaSとオーダーメイドの判断の目安(本文の整理)
SaaSが向いている条件オーダーメイドが向いている条件
業界全体で業務の流れが標準化されている自社独自の運用ルールが業務の根幹にある
法律や慣習で業務の形が決まっている業界の中でも特殊なフローを持っている
単一業務でシンプル、広がりが少ない複数の業務が複雑に絡み合って連携している
業務のやり方をツール側に合わせられる業務の形そのものが自社の競争力になっている
自社の業界に特化したSaaSが存在する合うSaaSを探し続けて、Excel併用が常態化している

具体的な業種で考えると見やすいです。たとえば美容院は、業務がシンプルで、ホットペッパーのような予約プラットフォームを起点に業務が回る構造になっています。リクルートがその文化を作ったのもあり、業界全体で業務の流れがほぼ標準化されている。こういう業種は、SaaSがハマりやすいです。クリニックも、医療系の法律で業務の形がかなり制限されていて、できることの幅が決まっています。法律で標準化されているとも言える。だから、クリニック向けのSaaSは、業務にフィットしやすい。

逆に、これらと違って業務の独自性が強い業界や、複数業務が独自の連携を持っている会社は、SaaSでハマる確率が下がります。標準的な機能セットでは表現しきれないことが多くなり、無理やひずみが生じる。こうした会社では、業務に合わせて作るほうが、現場の負担も少なく、長期で見ると安い選択になります。自社の業務が、どれだけ業界標準に乗っているか、どれだけ独自の形を持っているか、ここを正直に見るのが、SaaSとオーダーメイドの分かれ道です。

ただ、ここで気をつけたい話があります。「うちの業務は独特だから」と多くの経営者が言いますが、実際に聞いていくと、業界全体で見ればそれほど特殊ではないケースも少なくないです。逆に「うちは普通の業務しかない」と言う会社が、よく聞いてみると独自の運用ルールを多く持っていることもある。自社の業務の独自性は、内側からは見えづらい。ここを見極めるには、業界全体を知っている第三者の目で、自社の業務を見直す作業が必要になります。汎用SaaSで足りるのかオーダーメイドが必要なのかの判断は、自分たちだけで決めようとすると、どちらかに偏った結論になりがちです。

比較するときに見落とされる、最大の費用

最後に、SaaSとオーダーメイドの費用を比較するときに、いちばん見落とされる項目を書きます。それは、運用負荷です。物理的な作業負荷と、精神的な負荷の両方を含みます。

汎用的に作られたシステムは、誰でも使えるように設計されています。誰でも使えるということは、言い換えると、誰にも完璧にはフィットしていないということです。営業の世界で考えれば分かりやすいですが、誰にでもはまる営業トークというものはありません。あれば、ロボットに喋らせれば営業は契約を取れることになります。実際には、相手によって話を変える、相手の状況に合わせて踏み込む、これができる人が成果を出します。システムも同じ構造です。

汎用的なSaaSを使い続けるということは、自社の業務をシステムに合わせ続けるということです。月額数千円で済んでいるように見えても、現場が日々小さな無理を積み重ねて使っている。この無理は、見積もり書に金額として載らないので、比較表に出てきません。でも、長期で積み上がると、運用負荷として人件費や離職率に効いてきます。

オーダーメイドの場合、業務に合わせて作られているので、この種の運用負荷は基本的に発生しません。代わりに初期費用が大きいので、最初の数年は高く感じる。でも、3年5年と使い続けると、運用負荷の差が積み重なって、総コストで逆転することがある。なお、いま使っているシステムの作り直しを考えている場合は、フルスクラッチとSaaSのどちらでもない選択肢も含めて検討の幅が広がっています。

費用比較をするなら、月額や初期費用だけでなく、現場が無理を抱えながら使うことの見えないコストまで含めて見ることが、本当の意味で正しい比較になります。SaaSとオーダーメイドのどちらが安いかは、金額表だけでは決まりません。自社の業務がどれだけ業界標準に乗っているか、どれだけ独自の運用を持っているか、現場が無理なく使い続けられる設計になっているか、こういった軸で見たときに、本当の費用感が見えてきます。

よくある質問

Q.SaaSとオーダーメイド開発、結局どちらが安いですか?
A.業務が業界標準に乗っているならSaaS、独自性が強いならオーダーメイドが長期では安くなりやすい、というのが答えです。初期費用と月額だけでなく、カスタマイズ費、補完ツールの追加契約、現場が業務をシステムに合わせ続ける運用負荷まで含めた3〜5年の総額で比較してください。
Q.SaaSのカスタマイズ費はどのくらいかかりますか?
A.汎用型のSaaSを自社業務に合わせて大規模にカスタマイズすると、フルオーダーメイドの開発と変わらない費用になることがあります。一方、業界特化型のSaaSは業界共通のフローが作り込まれているため、軽微な調整で済みやすい。SaaSというカテゴリではなく、検討中のサービスがどちらのタイプかで見積もってください。
Q.SaaSからオーダーメイドに乗り換える目安はありますか?
A.SaaSの外側でExcelやスプレッドシートが増え続けて二重管理が常態化している、現場がシステムを介さない作業に戻り始めている、というのが典型的なサインです。SaaS導入から3年前後で移行を検討し始める会社は珍しくありません。
Q.月額制のオーダーメイド開発とはどういうものですか?
A.初期に数百万円を一括投資するのではなく、月額数万円で自社専用システムを構築・利用する形態です。当社のOneTraceでは月3万円から、構築期間は平均2週間〜1ヶ月で提供しています。従来の「オーダーメイドは高い」という前提を変えつつある選択肢です。
Q.自社がSaaS向きかオーダーメイド向きか、自分たちで判断できますか?
A.難しいことが多いです。自社業務の独自性は内側からは見えづらく、「うちは独特」と考える会社が実は標準的だったり、その逆だったりします。業界全体を知る第三者に業務を棚卸ししてもらってから判断するほうが、偏りのない結論になります。

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