業務改善
人を増やせない会社が、人手不足を乗り切る方法|今いる人を本来業務に集中させる
人を増やせない会社が人手不足を乗り切る方法。採用だけに頼らず、今いる人を本来業務に集中させる仕組みづくりで生産性を上げる具体的なアプローチを解説します。

人手不足は、今や多くの中小企業にとって、最も切実な経営課題のひとつです。募集を出しても応募が来ない、採用できても定着しない、ベテランが抜けると業務が回らない。人を増やそうにも、増やせない。この状況で、どう事業を回していくかに、頭を悩ませている経営者は少なくありません。
人手不足への対処というと、まず採用を強化する、待遇を改善する、という話になりがちです。もちろんそれも大事ですが、採用競争で大企業に伍していくのは、中小企業にとって簡単ではありません。人を増やす以外の道も、同時に考える必要があります。
この記事では、人を増やさずに人手不足を义り切る、もうひとつの道について書きます。結論を先に言うと、今いる人が、本来やるべき仕事に集中できる仕組みを作ることです。一人当たりが生み出せる成果を上げられれば、同じ人数でも、こなせる仕事は増えます。そして、その仕組みづくりには、業務に合わせたシステム化が効きます。
人手不足に、採用だけで立ち向かうのは難しい
人手不足を、採用だけで解決しようとするのは、中小企業にとって分の悪い戦い方です。
採用市場では、知名度も待遇も大企業が有利です。中小企業が同じ土俵で人材を取り合っても、勝ちにくい。仮に採用できても、教育に時間がかかり、戦力になる前に辞めてしまうこともある。採用と教育には、お金も時間もかかるのに、それが実を結ぶとは限らない。
もちろん、採用を諦めるべきだという話ではありません。採用は採用で続けるべきです。ただ、採用「だけ」に頼ると、人が採れない限り、人手不足はずっと解決しないことになります。人が採れないなら、今いる人でどう回すかを、並行して考えないといけない。
ここで効いてくるのが、今いる人の生産性を上げる、という発想です。一人が同じ時間でこなせる仕事が増えれば、人を増やさなくても、会社全体の処理能力は上がります。人手不足の本質は「人が足りない」ことですが、見方を変えれば「今いる人の時間が、本来やるべきでないことに奪われている」ことでもあります。ここに手を打てば、採用に頼らずとも、状況は改善できます。
しかも、生産性を上げる取り組みには、採用にはない利点があります。今いる人の負担が減ることで、働きやすさが上がり、定着率の改善にもつながる点です。事務作業に追われて疲弊している状態が続くと、人は辞めていきます。採用しても定着しない会社は、この悪循環に陥っていることが多い。負担を減らして本来業務に集中できる環境を作れば、採用した人も辞めにくくなる。生産性の向上は、人手不足の入口(採れない)と出口(辞める)の両方に効く打ち手です。
ツールを寄せ集めても、人手不足は解決しない
人手不足をシステムで解決しよう、という話になると、よく出てくるのが、既製のツールやSaaSを導入する、自動化ツールで単純作業を減らす、という方向です。経費精算ツール、請求書管理SaaS、RPAによる作業の自動化。こうしたツールは、確かに特定の作業を効率化します。
ただ、これらを寄せ集めても、人手不足が本質的に解決するとは限りません。理由は、これまでの記事でも繰り返し触れてきた通り、既製のツールは自社の業務にぴったり合わないことが多いからです。ツールごとに別々の場所に情報が入り、ツール間の連携を人が手作業で埋めることになる。一つの作業は効率化されても、ツールをまたぐ手間が新しく生まれて、全体としては思ったほど楽にならない。
それに、既製ツールが効率化できるのは、どの会社にも共通する標準的な作業に限られます。経費精算や請求書の処理のような、定型業務です。でも、中小企業の現場で人の時間を奪っているのは、そういう標準的な作業だけではありません。その会社特有の、複雑に絡み合った業務の中に、人の時間を無駄に消費しているポイントが隠れている。そこは、既製ツールの寄せ集めでは手が届きません。
人手不足を本当に解消したいなら、ツールを増やすことではなく、自社の業務のどこで人の時間が奪われているかを見極めて、そこを丸ごと作り変える発想が要ります。
本当に必要なのは、人を本来業務に集中させること
人手不足への対処として、いちばん本質的なのは、今いる人を、本来やるべき仕事に集中させることです。
どんな会社にも、その人にしか出せない価値がある仕事と、本来その人がやらなくてもいい仕事があります。営業担当なら、商談や提案が本来の仕事で、報告書の作成やデータの転記は、できれば手放したい作業です。設計者なら、設計そのものが本来の仕事で、見積もりの計算や事務処理は、付随的な作業です。ところが現場では、この本来やるべきでない作業に、かなりの時間が奪われている。
たとえば、ある営業会社では、営業担当が毎日2時間ほどを、案件管理や顧客管理、報告書の作成といった事務作業に取られていました。営業10人なら、1日20時間、月にすれば400時間以上が、本来の営業活動ではない作業に消えている計算です。この400時間を営業に戻せれば、人を増やさなくても、営業の総量は大きく増えます。
人手不足の現場で起きているのは、たいていこれです。人が足りないというより、今いる人の時間が、本来の仕事ではないところに流れ出している。その流れを止めて、本来業務に時間を戻すことが、一人当たりの生産性を上げるということです。そして、これは採用と違って、自社の工夫でコントロールできる領域です。
「人がやらなくていい仕事」と「人にしかできない仕事」を分ける
本来業務に集中させるためには、まず、業務を2つに分ける必要があります。人がやらなくていい仕事と、人にしかできない仕事です。
人がやらなくていい仕事とは、ルールに従えば誰がやっても同じ結果になる作業です。データの転記、定型的な計算、決まった書類の作成、情報の集計。こうした作業は、人の判断や経験が活きる余地が少なく、仕組みに任せられます。むしろ、人がやると、時間がかかる上にミスも起きる。
人にしかできない仕事とは、その人の経験、判断、感覚が成果を左右する仕事です。顧客との関係づくり、提案内容の組み立て、設計やデザイン、現場での咄嗟の判断。こうした仕事は、人がやることに価値があり、仕組みに置き換えられません。
人手不足を乗り切る鍵は、この2つを分けて、前者を仕組みに任せ、後者に人の時間を集中させることです。今、多くの会社では、この2つが混ざったまま、人が両方を抱えている。人にしかできない仕事をやるべき人が、人がやらなくていい仕事に時間を取られている。ここを切り分けて、やらなくていい仕事から人を解放すれば、同じ人数でも、付加価値を生む仕事の総量が増えます。
この切り分けは、その会社の業務をよく理解しないとできません。何が定型作業で、何が人の判断を要する仕事かは、会社によって違うからです。だからこそ、自社の業務に合わせた設計が必要になります。
そして、この切り分けには、もう一つ見落とされがちな効果があります。人がやらなくていい仕事から解放されることで、現場の人のモチベーションが上がることです。意味を感じにくい単純作業を延々とやらされる状態は、人のやる気を削ります。逆に、自分にしかできない仕事に集中できると、仕事の手応えが増し、成長の実感も得られる。生産性が上がるだけでなく、働く人の満足度も上がる。人手不足の時代に、今いる人に気持ちよく働き続けてもらうことの価値は、年々大きくなっています。仕事の切り分けは、効率の話であると同時に、人を大切にする話でもあります。
自社の業務に合わせて作るから、生産性が上がる
人がやらなくていい仕事を仕組みに任せる、と言っても、その仕組みが自社の業務に合っていなければ、効果は出ません。だから、既製のツールではなく、自社の業務に合わせて作ることが効いてきます。実際の例を、いくつか紹介します。
ある内装工事の会社では、見積もりや事務作業に多くの時間が取られていました。設計者が、本来集中すべきデザインや設計に使える時間が、事務処理に削られていた。業務に合わせたシステムを導入して、見積もりや事務作業の負担が大きく減り、デザインや設計そのものに時間を集中できるようになりました。設計者が、設計という本来業務に専念できるようになったわけです。
ある運送会社では、扱う配車の数が増えるにつれて、事務作業に時間が取られ、ミスも増えていました。業務に合わせたシステムを入れたことで、配車さえ登録すれば、請求書や支払いに関する計算も、ドライバーの手当の計算も、自動で処理されるようになりました。これまで人が手作業でやっていた計算が不要になり、その時間とミスのリスクが、まとめて消えたわけです。
ある会社では、代理店の顧客管理のために、本体と代理店のあいだのやり取りに、多くのコミュニケーションコストがかかっていました。本体と連動するシステムを提供したことで、代理店の顧客管理が本体と連動し、本体側でリアルタイムに状況を把握できるようになりました。これまで連絡を取り合って確認していた手間が、仕組みによって不要になったわけです。
これらに共通するのは、その会社の業務の中で、人の時間を奪っていた特定のポイントを見極めて、そこを業務に合わせて作り変えた、という点です。既製のツールを当てはめたのではなく、その会社の業務の形に沿って、人がやらなくていい部分を仕組みに移した。だから、現場の人は、本来やるべき仕事に時間を戻せた。一人当たりの生産性が上がるというのは、こういうことです。
人手不足は、人を増やすことだけでは解決しません。今いる人が、その人にしかできない仕事に集中できる環境を作ること。そのために、人がやらなくていい仕事を、自社の業務に合った仕組みに任せること。これが、人を増やせない会社が、人手不足を乗り切るための、現実的な道です。