仕事への影響
営業担当者の月次販売計画、入力を自動化し年4200時間削減 旧マルハニチロの事例
毎月の販売計画を、担当者の経験と勘を頼りに手入力している会社は少なくありません。もしその作業に業務用流通事業部で年間4200時間かかっているとしたら、削減の余地はどこにあるでしょうか。旧マルハニチロ(現Umios)の事例から、営業担当者の業務がどう変わったのかを見ていきます。
何が起きたか
旧マルハニチロ(現Umios)では、全国支社の営業担当者が毎月、事業や商品、倉庫ごとに翌月以降の販売計画を手作業で入力していました。この作業には業務用流通事業部の全支社で年間約4200時間を要していたと試算されています。販売計画管理システム「PPPlan」上の管理データは約470万セルに上り、人手による管理は限界に近づいていたといいます。
課題は大きく3つありました。1つ目は、システムに入力する支社と独自のExcelで管理する支社、運用自体が止まっている支社が混在し、入力が徹底されていなかったことです。2つ目は、計画値が担当者の「経験と勘」に基づいており、精度が属人化していたことです。3つ目は、生産計画への反映までのリードタイムから、予測対象が常に2~3カ月先になる構造になっていたことです。
これらの課題に対し、業務用流通事業部とDX推進部、Umiosテック、AWSの4者協業でプロジェクトが進められました。最終的にAmazon Scienceが開発した時系列基盤モデル「Chronos-2」を予測業務に導入し、PoC(概念実証)で対象とした定番商品では年累計で95%の予測精度が得られたといいます。全商品に展開すると、年間4200時間の作業削減が見込まれるとしています。
背景・解説
Chronos-2とは、Amazon Scienceが開発した時系列データ向けの基盤モデルです。膨大な時系列データで事前学習済みのため、個別にモデルを作り込む必要がなく、API呼び出しだけで予測を実行できます。導入支援ツール「Amazon SageMaker JumpStart」を使えば、数クリックで実行環境を用意できるといいます。
もともとUmiosは、社内で展開している生成AIチャット基盤「UmiChat」(「Claude Sonnet 4」ベース)で需要予測のPoCを始めていました。しかし大規模言語モデルによる一括予測には、再現性やシステムへの組み込みの面で課題があったといいます。そこでAWSが提案したのがChronos-2で、UmiChatと同じデータで比較したところ上回る予測精度を示したため、本格的なPoCの実施が決まりました。
予測の精度指標には「WMAPE」(加重平均絶対パーセント誤差)が使われました。一部の季節性商品では当初WMAPEが62.57%にとどまりましたが、季節性を示す特徴量を追加したことで20%まで改善したといいます。仕組みの設計上の工夫として、支社の担当者が最終確定するフローは維持したまま、AIは下振れ値・中央値・安全圏値の3点を示す「たたき台」を提供する位置付けにとどめています。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
営業担当者が手入力で担ってきた月次計画業務は、全廃ではなく「確認・修正」中心の仕事に変わります。これは、AIが予測値を作り、人が最終確定する役割分担が前提になっているためです。例えば、全国に20拠点を持つ食品卸で、各拠点の営業担当者が月末に2~3日かけて翌月以降の販売数を手入力しているとします。この入力作業自体を自動化の対象にできれば、担当者は数値を一から作る作業から、AIが示した予測の妥当性を点検する作業に時間を振り向けられます。
拠点ごとに入力ルールがバラバラな会社ほど、この種の自動化の効果は大きくなります。今回の事例でも、システム入力、独自Excel、運用停止という3パターンの乱立がまず解消すべき課題でした。例えば、支社ごとに管理方法が異なる地方展開型の卸売企業であれば、まず全拠点共通の入力フォームを整え、締め切りを統一するだけでも、予測モデル導入前の下準備として意味があります。
精度の「完璧」を最初から求めない姿勢も実務上の参考になります。今回は事業部が許容できる60~70%のラインを超えた時点で採用を決め、その後に特徴量を追加して80~90%台を目指す段階的な進め方を取りました。例えば、月次の需要予測を初めて自動化するアパレル卸の担当者であれば、初回導入時に90%超の精度を求めるべきではなく、まず業務が回る精度で運用を始め、半年かけて改善していくやり方で十分です。
計画担当の役割も、入力作業者から例外対応の判断者へと変わります。予測値と計画値の乖離をアラートで検知できる仕組みが整えば、担当者が毎月すべての商品を手で点検する必要はなくなります。例えば、商品点数が数百にのぼる食品メーカーの販売管理部門であれば、乖離アラートが出た商品だけを重点的に確認する運用に切り替えることで、月次業務の見直し対象を絞り込めます。
不確かな点・注意
今回の事例は、AWSとUmiosが共同で執筆したブログとして2026年9月10日に公開された内容に基づいています。95%という予測精度は、PoCで対象とした定番商品の年累計総計ベースの数値であり、季節性商品や新商品を含めた全体の精度がどうなるかは明らかにされていません。
学習データの扱いにも注意が必要です。在庫消化のための処分販売は異常値として学習対象から除外されており、こうしたデータ前処理の設計次第で予測結果が変わり得る点は留意すべきです。また、食品業界特有の課題として、規格変更のたびにJANコードが世代交代し販売履歴が分断される問題も指摘されていますが、記事内では現場の手作業での対処にとどまり、マスターデータ整備は今後の課題とされています。
さらに、AIに「説明」や「推奨アクションの提示」まで任せるエージェント機能は、実証段階にあるとされています。乖離アラートへの自動対応や、スポット品・新商品への予測対象拡大も計画段階であり、現時点で稼働している機能ではない点に注意してください。