ニュース
Tanium AtlasとiScope連携、専門知識なしでも内部犯行調査が可能に
内部犯行の調査は、これまで専門知識を持つ情報システム担当者やセキュリティー専門家の領域でした。タニウムとアイソプラが発表した新サービスは、その前提を変える可能性を示しています。操作ログの分析をAIに任せることで、専門知識がない担当者でも調査に関われる仕組みが示されました。
何が起きたか
タニウムは、パートナー企業のアイソプラとともに記者説明会を開き、操作ログ機能「iScope」の提供を発表しました。AIを活用した自律型運用システム「Tanium Atlas」と、アイソプラが開発したログ収集ソリューション「iScope」を連携させることで、専門知識を持たない担当者でも内部犯行の調査や分析を実施できるとしています。
iScopeはTanium上で動作し、ファイル操作、アクセスしたURL、通信、印刷、クリップボード、ウィンドウ、ログオン・ログオフなど、幅広いユーザー操作ログを端末側に常時記録します。新たなログ収集専用サーバーを構築する必要がなく、Taniumの標準コンソール画面から一元管理できる点が特徴です。
説明会では実演も公開されました。「機密ファイルの流出が疑われる端末と経路を調査して」とTanium Atlasに日本語で入力すると、AIがiScopeの印刷ログやブラウザーのアクセスログ、ファイル操作ログを自動で解析し、漏えい端末の特定と流出経路の概要をわずか数分でレポートにまとめました。時系列でのユーザー行動の再現や、サイバー攻撃の戦術を体系化したフレームワーク「MITRE ATT&CK」へのマッピング、対応の優先順位付けまで含まれているといいます。退職予定者によるデータ持ち出し調査や、未承認AIの利用実態の特定、業務時間外の操作ログを使った労働時間の客観的把握といった活用シナリオも示されました。
背景・解説
内部犯行とは、従業員などの組織内部の人間による情報漏えいや不正行為を指します。タニウムのプリンシパルストラテジストである楢原盛史氏は、日本の組織で内部犯行のリスクが高まっている背景として、経営層のIT理解不足や現場の人員不足、組織のサイロ化を挙げ、これらがITチームの疲弊とモチベーション低下を招く「組織シニシズム」を生んでいると説明しました。
以前の情報持ち出しはUSBメモリーや私用メールが中心で、事後調査でも足がつきやすいものでした。しかし現在は、生成AIへの機密情報の入力や未承認のAIエージェントの利用など、経路が見えにくい手口が増えています。IPAの調査によると、漏えいを認識した企業数は2020年度から2024年度で約6.8倍に増加しており、増加傾向は続いているとされます。
日本には不正競争防止法や個人情報保護法、経済安全保障推進法など厳格な罰則規定があり、情報漏えいは個人だけでなく企業の責任にも直結します。こうした状況から、規定や定期監査に頼る「静的管理」ではなく、テクノロジーで実態を把握する「動的管理」への転換が課題とされています。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
操作ログの一次確認にかかる時間は、専門人材がいない組織ほど短縮効果が大きくなります。例えば、総務担当者が1人でセキュリティー対応も兼務している従業員50人規模の製造業であれば、従来は外部ベンダーへの調査依頼に数日を要していた作業が、日本語の指示入力だけで初期レポートを数分で得られるようになります。これは調査の初動を早め、被害拡大を防ぐ時間を確保することにつながります。
退職予定者のデータ持ち出し確認や、シャドーAIの利用実態把握といった用途は、情報システム部門が1〜2人しかいない中小企業にも向いています。例えば、経理担当者が退職を申し出た際に、過去数週間の印刷ログやファイル操作ログをAIに横断分析させれば、持ち出しの兆候の有無を数分で確認できます。専門知識がなくても「調査の着手」ができる点は、人員不足が常態化している企業にとって実務上の意味が大きいです。
一方で、ログの常時監視は従業員のプライバシーに関わる領域でもあります。労働時間の客観的把握といった用途に使う場合は、就業規則や労使間の合意を事前に整えるべきです。AIが出す調査結果はあくまで判断材料であり、懲戒や法的対応の最終判断は人が担う体制を崩すべきではありません。
不確かな点・注意
記者説明会の内容からは、サービスの提供開始時期や価格、導入に必要な期間は明らかになっていません。実演で示された「数分」という処理時間も、説明会でのデモンストレーションに基づくものであり、企業のログ量や端末台数が異なる実運用での所要時間は不明です。
また、AIが提示する行動意図の推定やMITRE ATT&CKへのマッピングの精度についても、出典からは具体的な検証データは示されていません。最終的な是正措置の実行には人間の承認が必要とされていますが、どの範囲まで自動化され、どこから人の判断が必須になるのかの詳細も今回の発表だけでは分かりません。導入を検討する企業は、自社の法務・労務部門と連携し、ログ収集の範囲や従業員への周知方法を個別に確認する必要があります。