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Microsoft・GSK・Novartis、逆合成AI「RetroChimera」を発表 創薬の経路設計を効率化

新薬の候補分子が見つかっても、それを実際に作る経路を考える工程には時間がかかります。この作業をAIがどこまで肩代わりできるのか、Microsoftと製薬大手2社が示した検証結果は、研究部門を抱える企業にとって参考になる内容です。

何が起きたか

Microsoft Researchは、GSKとNovartisを含む共同研究者とともに、分子の合成経路を自動で提案するAIモデル「RetroChimera」を開発したと発表しました。Nature誌に掲載された研究論文では、公開されている化学データと企業が保有する非公開データの両方でモデルの性能を検証し、その提案が専門家化学者の判断とどれだけ一致するかを調べています。

ベンチマークとして選ばれた10分子について専門家化学者が評価したところ、RetroChimeraは9分子で完全に受理される合成経路を提示しました。比較対象となった他モデルは2〜5分子にとどまっています。さらに、Microsoftや大手製薬企業出身の博士号取得済み有機化学者9人に、RetroChimeraの提案と過去に文献で報告された合成法を比べてもらったところ、約64%の割合でRetroChimeraの提案が選ばれました。

研究チームは今後、ベンチマークテストの枠を超え、実際の創薬研究の現場でこのモデルを評価する計画があることも明らかにしています。

背景・解説

逆合成とは、目指す分子から出発し、段階を追って単純で市販可能な原料へと分解していく考え方を指します。分子を組み立てる経路の候補はチェスや囲碁よりもはるかに多く、長年、この作業を自動化するのは難しいとされてきました。

しかし近年の機械学習の進歩は、この前提に挑戦しつつあります。既存の逆合成AIには、発生頻度は低いものの戦略上重要な反応を扱いにくい、不正確な予測を出しやすいといった弱点がありました。RetroChimeraは単一のモデルに頼るのではなく、それぞれ異なる強みを持つ複数のモデルの予測を組み合わせる設計を採用し、こうした弱点を補おうとしています。

もう一つの課題は、製薬企業が公開データセットとは異なる独自の化学データを大量に持っている点にあります。研究チームは、事前学習済みのRetroChimeraをGSKの社内データに適応させられることを示しており、公開ベンチマークだけでなく実際の研究現場のデータにも対応できる可能性を示唆しています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

合成経路の初期案づくりにかかる時間は、この種の技術で大きく縮められます。例えば、研究員20人規模の創薬ベンチャーの合成化学チームなら、新しい候補分子1つにつき数日かけていた経路検討の一部を、AIが出す複数の候補案を絞り込む作業に置き換えられます。最終的にどの経路を採用するかは化学者の判断に委ねる形が現実的で、AIは叩き台を作る役割にとどめるべきです。

社内に長年の実験データを蓄積してきた製薬会社ほど、この技術の恩恵は大きくなります。GSKの事例が示すように、事前学習済みモデルを自社データに適応させられるなら、ゼロから機械学習基盤を構築する手間は不要です。一方で、独自データをほとんど持たない小規模な研究機関や大学の化学系ラボにとっても、公開データで鍛えられたモデルの提案精度が上がること自体は意味があります。

材料科学やファインケミカル開発など、創薬以外の分野で分子合成に関わる部門も、同じ発想で活用先を検討する価値があります。合成経路の検討に人手を割いている工程があるなら、まずはどの工程がAIによる候補出しで短縮できそうか、洗い出すところから始めるべきです。

不確かな点・注意

今回示された結果はベンチマークテストでの評価であり、実際の創薬プロセス全体でどこまで有効かは、研究チーム自身が今後の検証課題としています。商用提供の形態やオープンソースとしての公開範囲など、企業が実際に利用できる条件については出典から明確に読み取れません。

64%という選好率は9人の化学者による評価に基づくものであり、より多くの専門家や多様な分子で同じ傾向が出るかは分かっていません。日本企業や日本国内の研究機関がこの技術にどのようにアクセスできるかについても、現時点で言及はありません。

出典

  1. RetroChimera: Microsoft and Partners Launch AI Model for Automated Retrosynthesis

AI Topica 編集部