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個人のAI活用は進んでも儲けは出ない――オラクル幹部が指摘した企業AIの壁

生成AIを使いこなす社員が増えても、決算書の数字は変わらない――そんな違和感を抱く経営者や管理職は少なくないはずです。日本オラクルのイベントで示された指摘は、この違和感の正体を言い当てています。

何が起きたか

日本オラクルは10月6日、東京都内で企業のAI活用をテーマにしたイベント「Oracle AI Forum」を開催しました。基調講演に登壇したのは、同社取締役執行役社長の三澤智光氏です。

三澤氏はまず、企業が向き合うべき3つの問いを示しました。「AIを使って何を目指すのか」「AIのためにデータ基盤を作るのか、それともデータ基盤をAIで作るのか」「AIやデータの主権をどう実現するのか」という内容です。

その上で三澤氏は、現状の生成AI活用について率直な評価を述べました。従業員個人の範囲では生産性向上や業務効率の改善といった効果が見え始めている一方、企業全体での財務的な成果としてはまだ示せていないという指摘です。同氏はこの2つを「支援系AI」(個人範囲の活用)と「基幹系AI」(企業全体の活用)と呼び分け、後者を業務に実装することで組織の処理能力そのものを広げるべきだと説きました。

具体例として三澤氏は、100人分の業務をAIによって80人で担えるようにできれば、残る20人を新しい取り組みに充てられ、財務的な成果を示せるようになると述べています。講演後には、顧客企業の矢崎総業と楽天グループ、パートナーのソフトバンクが、それぞれの取り組みを紹介しました。

背景・解説

ERP(統合基幹業務システム)とは、会計や人事、生産、販売といった企業の基幹業務を一つのシステムで管理する仕組みを指します。三澤氏が今回の講演で問題視したのは、従来型のERPではシステムやデータ、セキュリティ、ガバナンスがそれぞれ別々に管理される「サイロ化」が起きている点でした。

この構造が、AIを企業全体の業務に組み込む際の壁になります。人間の代わりに業務を遂行する「基幹系AI」を実現するには、AIが正しく理解できる形のデータとビジネスの文脈、そしてAIが踏み外さないための行動規範が欠かせません。データやシステムが分断されたままでは、この条件をそろえるのが難しくなります。

日本オラクルは、自社の「Oracle Fusion Cloud Applications」や「NetSuite」「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)が、統一されたデータモデルとビジネスの文脈、セキュリティやガバナンスを一体で持つ点を強みとして説明しました。さらに「Oracle Autonomous AI Database」を使えば、業務システムに隣接する形でAI活用のためのデータ基盤を小さく始められるとし、地政学リスクやサイバー脅威の高まりを踏まえた主権対応として「Oracle Alloy」と日本独自の運用拠点の組み合わせも紹介しています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

生成AIの個人利用を「導入済み」と報告している会社ほど、実は経営課題への取り組みはまだ始まってすらいません。三澤氏の指摘が突きつけているのは、チャットボットや文書作成支援で社員の作業が早くなったことと、会社の利益が増えることは別の話だという現実です。例えば、従業員300人の製造業で経理部10人が請求書処理にAIを使い、一人あたりの作業時間が月10時間短縮されたとします。その効果は担当者の残業削減にはつながっても、決算に表れる成果にするには、空いた時間で誰が何をするかという設計が別途必要です。

経営層や管理部門が次に手を付けるべきは、個人のAI活用状況を数えることではなく、どの業務プロセスをAIに任せ、浮いた人員をどこに再配置するかという計画です。三澤氏が挙げた「100人の業務を80人で回し、残り20人を新しい取り組みに充てる」という発想は、単なる人員削減ではなく、再配置先を決めて初めて財務成果につながるという意味で読むべきです。

データ基盤の整備も避けて通れない論点です。基幹業務のデータがシステムごとに分断されている会社では、AIに任せられる業務の範囲が限定されます。例えば、拠点ごとに販売管理システムが異なる小売チェーンでは、まずデータを一元化する作業自体に数カ月単位の時間がかかることを見込んでおくべきです。基幹系AIの導入を検討する前に、自社のデータがどれだけサイロ化しているかを棚卸しすることが、遠回りに見えて近道になります。

不確かな点・注意

今回の発表は日本オラクルが主催するイベントでの基調講演であり、同社の製品やサービスの優位性を前提とした説明が含まれています。「支援系AI」「基幹系AI」という呼び方も同社独自の整理であり、業界で広く使われている用語ではない点に注意が必要です。

「100人の業務を80人で可能にする」という例示についても、具体的な業種や導入企業名を伴う実証データとしては示されておらず、あくまで考え方を説明するための数字です。講演後に取り組みを紹介したとされる矢崎総業や楽天グループ、ソフトバンクについても、どのような成果が出ているかという具体的な数値は明らかにされていません。各社の実際の活用状況や投資対効果を確認するには、今後の個別の続報を待つ必要があります。

出典

  1. 企業AIの本丸は基幹業務での実行--オラクルが示したAI活用の現在地

AI Topica 編集部