仕事への影響
経理の請求書処理、AI導入より先に「業務を削る」発想が生んだ年9000時間
請求書処理にAIを入れれば時間が浮く、という単純な話ではありません。野村不動産ホールディングスの事例は、AI導入の前に「その業務自体をなくせないか」を問い直すことが、経理部門の成果を左右することを示しています。
何が起きたか
野村不動産ホールディングス(HD)は、2023年7月からSansanの請求書管理サービス「Bill One」を導入しました。現在はグループ10社で活用しており、年間約32万件にのぼる請求書業務をペーパーレス化しています。
支払処理を統括する資金部では、この取り組みによって年間9000時間以上の業務時間創出につながったといいます。同社資金部の事務推進二課長を務める仲悠介氏によると、ツール導入を検討する前に「そもそもその業務を、なくせないのか?」と考えることを特に意識しているそうです。過去の業務のために残っている作業まで引き継いでしまわないよう、業務全体を俯瞰した上で本当に必要な仕事かを見極めるといいます。
AI活用についても同様の姿勢が貫かれています。同社は「高頻度」「単純」「大量」な業務からAIを適用する方針を取っており、請求書の金額入力や支払日の読み取りといった、誰がやっても結果が変わりにくい作業を優先しているとのことです。
背景・解説
Bill Oneは、紙の請求書を受け取ってスキャンし、システムへアップロードして原本を保管するという、従来手作業に依存していた一連の流れをペーパーレス化するための請求書管理サービスです。
野村不動産HDは開発、資産運用、仲介、管理など複数の事業をグループで展開しており、会社ごとに業務や会計処理の慣習が異なります。同じ請求書であっても、事業のフェーズや購入目的によって勘定科目が変わることがあるため、全グループ会社の業務を一律に統一するのは容易ではありません。こうした違いを無理にそろえようとすると、システムの判断条件が増え、AIに任せる範囲もかえって複雑になってしまいます。
そこで同社が重視しているのが、業務そのものの要不要を最初に見極める段階です。ツールを入れる前に「なくせないか」「減らせないか」「標準化できないか」を問うことで、AIに処理させる対象を、判断がぶれにくい単純作業に絞り込んでいます。この順番が、年間32万件という規模の業務をペーパーレス化しても運用が破綻しなかった一因になっているとみられます。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
経理部門がAI活用で成果を出すには、ツール選定より先に業務の棚卸しを終える必要があります。今回の事例が示すのは、AIを入れる範囲を「高頻度・単純・大量」に絞り込んだからこそ、判断条件が増えずに運用が安定したという順序です。例えば、月間500件程度の請求書を処理する中堅の不動産管理会社で、経理担当者が2人だけの体制だとします。この会社がまず勘定科目の登録ルールを整理し、金額入力と支払日の読み取りだけをAIに任せる形にすれば、担当者1人あたり月10時間前後の作業削減は十分に見込める規模です。逆に、勘定科目の判断まで含めて丸ごとAI化しようとすると、グループ会社ごとに例外処理が積み重なり、かえって確認作業が増えてしまいます。
判断の順番も重要です。ツール導入の稟議を先に通してから業務範囲を後付けで決める進め方では、過去の慣習に合わせた不要な確認作業まで引き継いでしまいます。経理担当役員やDX推進担当者は、まず「この作業はなくせないか」を紙に書き出す会議を1回設けるだけで、AI化の対象がどれだけ単純化できるか見えてきます。
経理の相手は事業部門の担当者であるという点も見過ごせません。標準化を急ぐあまり現場の運用実態を無視すると、システムはあっても問い合わせが減らないという事態になります。ツールの導入効果を数字で語る前に、業務範囲を絞り込む工程に時間をかける方が、結果的に近道です。
不確かな点・注意
年間9000時間という数値は資金部単体の創出時間であり、グループ全体や他部門にどこまで波及したかは明らかにされていません。また、32万件という請求書件数がグループ10社の合計値なのか、1社あたりの規模なのかについても、出典からは判断できません。
「高頻度」「単純」「大量」という基準がどのような判断プロセスで個々の業務に適用されているか、具体的な選定手順は示されていません。他社が同様の効果を得られるかどうかは、業種や事業構成の違いによって変わる可能性があり、野村不動産HDの事例をそのまま当てはめられるとは限りません。導入コストや運用にかかった期間についても、記事内では触れられていない点に注意が必要です。