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チャット受信が多い日は人間関係のコンディションが悪化、イトーキが854人分析で判明

会議を減らすべきか、それともチャットの数を減らすべきか——。オフィスの働き方を見直そうとするとき、何から手を付けるべきか迷う管理職は少なくないはずです。今回の分析結果は、その優先順位を考える手がかりになります。

何が起きたか

イトーキは10月2日、松尾研究所との共同研究の成果として「データ駆動型生産性推定モデル」を構築したと発表しました。70種類の行動データをセンサーなどで収集し、生産性向上につながる要因を因果関係から探る取り組みです。

分析対象は、イトーキの東京・日本橋にある本社オフィスで働く854人の行動データです。2025年12月の1カ月間、位置情報(ビーコン)やカレンダーの予定表、メールやチャットの履歴など複数のデータから約70種類の特徴量を、匿名化した上で抽出しています。

分析には松尾研究所が用いる時系列の因果探索手法「VAR-LiNGAM」が使われました。相関関係ではなく、ある日の行動が翌日のコンディションにどう影響するかを、因果の向きと時間差を含めて職種別に調べる手法です。

結果としていくつかの傾向が明らかになりました。会議は総時間の長さよりも「数」が多い日の翌日に、全職種共通でコンディションが低下する傾向が確認されています。逆に60分以上まとまって作業できた日は、全職種のうち88%の従業員で翌日のコンディションが向上したといいます。また、メールやチャットでは「送信量」ではなく「受信量」が多い日に、営業・サービス職を中心に人間関係のコンディションが低下する傾向が見られました。一方、オフィス滞在時間の長さやチャットへの返信速度などは、組織全体として一貫した影響を与えていないことも判明しています。

背景・解説

人的資本経営が求められる中、企業は従業員の生産性をどう測り、どう高めるかという課題を抱えています。これまで生産性の評価は、成果の定義が職種ごとに異なることや影響する要因が多すぎることから、年に数回実施する主観的なサーベイに頼らざるを得ませんでした。生産性が低いことは分かっても、どの要因を改善すればよいかまでは見えにくいという状況が続いていたといいます。

今回使われた「VAR-LiNGAM」は、複数の時系列データから変数同士の因果の向きと時間差を推定する分析手法です。単なる相関関係では「チャットを送るから人間関係が良いのか、人間関係が良いからチャットを送るのか」を区別できませんが、因果探索の手法を使うことで、どちらが原因でどちらが結果かを切り分けられる点に特徴があります。

今回の研究では、会議の数が多い翌日にコンディションが下がり、60分以上の集中作業がある翌日にコンディションが上がるという結果は、一般的な「通説」を裏付ける内容でした。一方、チャットの受信量が人間関係のコンディションを下げる一方で送信量は翌日の人間関係を改善する傾向や、オフィス滞在時間・返信速度などが一貫した影響を持たないという結果は、むしろ予想に反する「意外な発見」として位置づけられています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

チャットの受信量が多い部署ほど、情報の流し方を見直す余地があります。例えば、営業担当者が10人の中堅企業で、1人あたり1日100通前後のメールやチャットを受信している場合、CC(カーボンコピー)の対象範囲を絞り込み、共有事項を週1回のまとめ送信に切り替えるだけで、受信件数を実質的に減らせます。これは今回の分析が示す「送信量ではなく受信量がコンディションを下げる」という結果に沿った対策です。

会議についても、時間の長さより回数を見直す方が効果的です。例えば、週に15件の定例会議を抱える部門であれば、進捗確認の半分をチャットやドキュメントでの非同期共有に置き換えることで、会議数そのものを減らせます。今回のデータでは会議の総時間よりも数の多さが翌日のコンディション低下と結びついていたため、単純な時間短縮よりも件数の削減が優先課題になります。

一方、1時間以上まとまった作業時間を確保する施策も有効です。例えば、従業員50人の設計部門で、週に2コマ「会議禁止の集中時間枠」をカレンダーに設定すれば、分析結果が示す「60分以上の作業がコンディションを高める」という傾向を実務に落とし込めます。こうした施策は、オフィスのレイアウト変更や高額なツール導入をせず、カレンダー運用とメールのルール変更だけで着手できる点が実務的です。

不確かな点・注意

今回の分析は、イトーキの本社オフィスで働く854人を対象にした2025年12月の1カ月分のデータに基づくものです。業種や職種、オフィス環境が異なる企業にそのまま当てはまるかどうかは分かっていません。

また、会議数やチャット受信量とコンディションの関係は、あくまで今回の因果探索手法によって得られた分析結果です。全ての職場で同じ傾向が再現されるとは限らず、特に営業・サービス職以外の職種での受信量の影響については、記事中で明確な数値は示されていません。

センサーによる位置情報やメール・チャットのメタデータを収集する仕組みを他の企業が導入する場合のコストや、従業員のプライバシーへの配慮をどう設計するかといった運用面の課題についても、今回の発表だけでは判断できかねる部分が残ります。

出典

  1. 「チャット受信」が生産性を下げる?--イトーキと松尾研究所、854人の行動データからAIで生産性を分析

AI Topica 編集部