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社内IT環境の不満で年147時間ロス 経営者の投資1位はAI、最下位はITサポート
AI導入に前のめりな経営層と、日々の端末やツールの不満を抱えたまま働く現場との間には、どれほどの差があるのでしょうか。DXERが実施した実態調査は、その溝を具体的な時間と金額で示しました。
何が起きたか
DXERは2026年8月19日、「社内IT環境と従業員の成果に関する実態調査」の結果を発表しました。調査は、従業員10人以上でAI・ITを日常的に利用している企業の経営者・役員300人と正社員1000人を対象に、2026年7月21〜22日にインターネット調査で実施されたものです。
調査によると、動作の遅い端末やツール不足といった社内IT環境の問題により、従業員1人当たり年間147時間(約18営業日)が失われていることが分かりました。時給3000円で換算すると、金額にして1人当たり年間約44万円、従業員100人の企業では年間約4400万円に相当するといいます(いずれも回答者の自己申告に基づく推計値です)。
一方で、改善が必要だと感じている従業員は44.2%に上るものの、そのうち62.4%は会社や上司に要望を上げていませんでした。経営者側の投資優先領域は1位が「AI・自動化ツールの導入」で47.3%、最下位は「ヘルプデスク・ITサポート強化」で8.7%にとどまっています。従業員の困りごとの1位は「AI活用が進んでいない」の26.8%でした。
背景・解説
ここでいう「社内IT環境」とは、業務で使う端末の動作速度やツールの充実度、ヘルプデスクの対応スピードなど、従業員が日常的に接するIT基盤全般を指します。システム障害のように一目で分かる不具合とは異なり、「使いたいツールが導入されない」「PCの動作が遅い」「問い合わせへの返答に時間がかかる」といった小さな停滞が積み重なる点が特徴です。
DXERは調査の背景について、生成AIやAIエージェントの導入企業が増える一方で、その土台となる社内IT環境の実態が数字で語られる機会はほとんどなかったと説明しています。実際、社内IT環境の満足度で最大のセグメントは、不満層でも満足層でもなく、41.4%を占める「どちらともいえない」層でした。
さらに、経営側の情報不足も明らかになっています。満足度調査を実施していない経営者の62.0%は、自社従業員のIT満足度を「判断できない」と回答しており、定期的に調査している経営者ではこの割合が13.5%まで下がります。声が上がっていないことと、問題が存在しないことは別だと、DXERは指摘しています。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
経営者がAI導入を急ぐほど、足元のIT環境整備を後回しにするほど、現場の疲弊は数字となって表れます。まず言い切れるのは、AI投資の成果は社内IT環境の整備状況に左右されるという点です。調査でも、困りごとの1位である「AI活用が進んでいない」を挙げた回答者の67.5%は、それ以外の運用面の課題も同時に抱えていました。例えば、従業員80人の物流会社で情シス担当がひとり体制のまま生成AIツールを次々に導入した場合、端末の動作遅延やヘルプデスクの対応遅れが放置されたままだと、年間で約3500万円分(147時間×80人×時給3000円換算)の生産性が目に見えない形で失われる計算になります。
次に重要なのは、不満は放っておいても自然には上がってこないという点です。調査では改善が必要だと感じる従業員の62.4%が要望を上げておらず、20〜30代では「要望したいができない」が33.3%を占めました。声を待つ経営スタイルでは、特に若手ほど不満を抱えたまま転職に動きます。時間ロスが週6時間以上の層では75.9%が社内IT環境を転職先選びの重要な基準に挙げており、この数字は人材流出に直結する経営上のリスクとして扱うべきです。
最後に見逃せないのが、投資判断そのものの根拠不足です。満足度調査をしていない経営者の62.0%が自社従業員のIT満足度を「判断できない」と答えており、感覚だけで投資配分を決めている実態が浮かびます。人事や情シスの担当者が1人しかいない中堅企業であっても、年1〜2回、固定した設問で従業員の時間ロスを測定すれば、ヘルプデスク強化やツール更新の優先順位づけに使える具体的な数字が手に入ります。まずは測ることから始めるべきです。
不確かな点・注意
本調査の数字は、いずれも回答者本人の自己申告に基づく推計値であり、実際の業務時間や損失額を客観的に測定したものではありません。147時間や44万円、4400万円といった数字は、あくまで回答結果から算出された推計である点に注意が必要です。
経営者の投資優先領域と従業員の困りごとは選択肢の作り方が異なるため、DXER自身も「厳密な比較はできない」としています。両者の順位づけを単純に対立させて読むのは避けるべきです。
調査対象は、従業員10人以上でAI・ITを日常的に利用している企業に限られています。この条件に当てはまらない小規模企業や、AI・IT利用の頻度が低い企業における実態は、この調査結果からは分かりません。