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仕事への影響

SIerのSEが「御用聞き」卒業 発注側の情シス担当者も仕事が変わる

システム開発を発注する側の担当者にとって、SIerの担当者が「要件を聞いて持ち帰る人」から「その場で一緒に作る人」に変わるなら、発注の仕方そのものを見直す必要が出てきます。日立製作所の現場エンジニアの証言から、その変化の輪郭が見えてきました。

何が起きたか

日立製作所で「FDE」(Forward Deployed Engineer)として顧客の現場に入る中村憲吾氏は、かつての自身の仕事を「御用聞きでした」と振り返ります。御用聞きとは、顧客の要件通りに開発するSIerの受け身の姿勢を指す言葉です。

同社でFDEとして働く保田政輝氏によれば、FDEと呼ばれるようになって最も変わったのは「顧客との接点の持ち方」だといいます。従来は要件を聞いて一度持ち帰り、後日改めて提案するという段取りを踏んでいましたが、現在はAIに詳しい人材が顧客の業務現場に入り込み、その場で要件を聞き出し、実装し、納品まで進めるようになったといいます。

企業システムのモダナイゼーション支援部隊を統括する後藤恵美氏によれば、日立ではFDEの認定を制度化している最中で、一部の高度人材が先行して稼働を始めている段階です。後藤氏は、コンサルタントや業界に精通した人材、AI人材を組み合わせたチーム体制がFDEの特徴だと説明しています。開発工程ごとの役割分担がはっきりしていた従来型と異なり、FDEチームではコンサルタントとエンジニアの連携が早い段階から始まるといいます。日立が同日公開した資料では、AIによる開発効率化について社内で確認したところ約200倍の生産性向上を実現したとされています。

背景・解説

FDEはもともと米国のAIプラットフォーム企業Palantirが整備した職種で、同社のプラットフォームを「顧客の最も難しい課題に合わせて導入するソフトウェアエンジニア」と定義したことに由来します。米OpenAIや米Anthropicといったプラットフォーマーもこの職種を掲げ、SIerやコンサルティング企業も既存人材をFDEに転換させる動きが広がっています。

日立の中村憲吾氏は、御用聞きと呼ばれていた時代は顧客の要件が明確だったと説明しています。一方、現在はシステムが複雑化し技術の変化も速いため、業務のどこに問題があり今後どうすべきかを顧客自身が把握しきれていないケースが増えているといいます。そこで業務やAIの専門知識を持つFDEが、既存システムの把握段階から支援する必要が出てきたという流れです。中村知倫氏も、要件定義に入る前の段階から顧客と一緒に課題を探る案件を担当していると述べ、エンジニアがより上流の段階から早く関わるようになってきていると証言しています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

発注側の企業は、SIerへの依頼の仕方を「仕様を固めてから渡す」形から「課題が曖昧な段階で一緒に入ってもらう」形に切り替えるべきです。例えば、従業員500人規模の製造業で情報システム担当者が2人しかいない会社なら、これまでは半年かけて要件定義書を作り、それをSIerに渡して見積もりを取るという進め方が一般的でした。FDE型の対応が広がれば、要件定義書を作る前の週1回の打ち合わせの場に、AIに詳しいエンジニアが同席し、その場で試作品を動かしながら課題を絞り込むという進め方に変わっていきます。

この変化が起きると、発注側に求められるスキルも変わります。仕様書を細かく書く能力よりも、現場の業務担当者が「何に困っているか」を言葉にして伝える能力の方が重要になるということです。例えば経理部門で月次決算の締め作業に1人あたり3日かかっている会社なら、従来はその作業手順を全て文書化してからSIerに渡していましたが、今後はエンジニアが決算作業に同席し、その場でボトルネックを特定して簡易ツールを組む、という進め方が現実的な選択肢になります。

一方で、日立の事例が示すのは「1人のFDEが万能にこなす」姿ではなく、コンサルタントと業界知見人材とAI人材のチームで対応する体制です。発注側企業は、SIerの担当窓口が1人だけの体制から、複数人のチームが同時に動く体制に変わることを前提に、社内の意思決定者も同席させる準備をしておくべきです。決裁者不在のままFDEチームと打ち合わせを重ねても、その場での実装というメリットが生かせません。

不確かな点・注意

日立ではFDEの認定制度が「制度化しようとしている途中」であり、対象人数や適用範囲、認定基準は明らかにされていません。社内検証で示された「約200倍の生産性向上」も、対象業務の種類や比較条件、測定方法の詳細は分かっておらず、あらゆる開発案件に当てはまる数字ではありません。また、今回の証言は日立の一部エンジニア3人によるもので、同社全体やSIer業界全体に共通する状況とは限らない点にも注意が必要です。FDEという呼称自体、各社で定義や運用にばらつきがある可能性も残ります。

出典

  1. 日系SIerの「御用聞き」は流行りの「FDE」に花開くか? 日立が語る“時代の変化”

AI Topica 編集部