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仕事への影響

監査調書の査閲、AIが一次チェック 仰星監査法人とSapeetが「査閲AI」開発

監査調書の査閲は、経験豊富な上位者の目と時間に頼ってきた仕事です。この一次確認をAIが担うようになったら、査閲担当者の役割はどう変わるのでしょうか。仰星監査法人とSapeetの取り組みから、その変化の中身を読み解きます。

何が起きたか

株式会社Sapeetと仰星監査法人は、監査調書の査閲を支援するAI「査閲AI」を共同開発しました。両社は2025年に環境分析や固有リスク要因の抽出を支援する「分析AI」を開発しており、今回はそれに続く監査支援AIの第二弾となります。

査閲AIでは、監査人が作成した監査調書をAIが読み込み、仰星監査法人が監査基準や実務知見をもとに整理した独自の査閲観点に沿って内容を確認します。不足している情報や修正が必要な箇所について、AIが指摘の根拠や引用元、改善すべき具体的なアクションを提示する仕組みです。

ただしAIが最終的な査閲判断を行うわけではありません。提示された内容を作成者・査閲者が確認したうえで、最終判断は人が行う設計になっています。2026年9月からは仰星監査法人の監査担当者向けに公開され、実際の監査調書を用いた試行利用が始まっています。

背景・解説

監査調書とは、監査人が実施した手続きや判断の過程・結論を記録した文書のことです。査閲とは、その調書を上位者がレビューし、必要な手続きが実施されているか、証拠が結論を十分に裏付けているかなどを確認することで、監査品質を担保する作業を指します。

両社は2025年、企業・環境分析や固有リスク要因の抽出を支援する「分析AI」を開発していました。外部情報の収集からリスク分析までをAIが担うことで、監査計画にかかる時間を減らし、監査人がより高度な判断に集中できる環境づくりを狙ったものでした。

今回の査閲AIは、この取り組みを監査法人の競争力の源泉でもある「監査品質」を支える査閲プロセスにまで広げたものです。仰星監査法人が培ってきた査閲観点の専門知をAIに実装し、監査人の判断を支援することで、組織的な監査品質の向上を目指すとしています。開発基盤には、アマゾン ウェブ サービスのAIエージェント基盤であるAmazon Bedrock AgentCoreを採用し、コードベースでの開発・運用やバージョン管理を可能にしています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

査閲担当者の仕事は、調書を一から読み込んで不備を探す作業から、AIが拾い上げた指摘を検証し、監査意見の形成に関わる重要な論点の判断に時間を割く仕事へと重心が移ります。

例えば、地方都市の中堅監査法人で、査閲担当者1人が月間80件前後の監査調書を確認しているケースを考えてみます。これまでは記載内容の確認から証拠の十分性の検討まで、すべての調書に目を通す必要がありました。AIが一次チェックを担うようになれば、形式的な不備や記載漏れの指摘はAIに任せ、査閲担当者は重要な判断が求められる調書の論点に集中できるようになります。

もう一つの変化は、若手監査人の育成の面に表れます。AIの指摘は機械的に出されるため、監査人本人が根拠を確認しながら自分で調書を修正していく過程が生まれます。この過程を繰り返すことで、査閲観点を組織として共有しながら、個人の経験に頼っていた判断力を若手にも伝えやすくなります。経理部門で特定のベテラン社員だけが決算の最終チェックを担ってきた会社が、チェック項目をリスト化して若手に引き継ぐのと近い発想です。

レビューの往復による手戻りが減れば、監査プロセス全体の効率性と信頼性が高まるとされています。とはいえ最終判断は作成者・査閲者が行う設計である以上、査閲担当者の確認作業そのものがなくなるわけではありません。AIは判断の材料をそろえる役割にとどまり、意見形成の責任は引き続き人が負う形です。

不確かな点・注意

出典には、査閲AIの導入によって査閲にかかる時間がどの程度減るか、指摘の精度がどの水準にあるかといった具体的な数値は示されていません。効果の大きさは今後の運用実績を見る必要があります。

試行利用は2026年9月に仰星監査法人の内部で始まったばかりで、他の監査法人への展開時期は明らかになっていません。今後は現場からのフィードバックを得ながら、指摘の精度や出力の粒度を継続的に改善していく段階にあります。

また、会計基準や判断ノウハウを蓄積する「監査ナレッジDB」や、会計論点の壁打ちを支援する「対話AI」、時系列データを読み解く「解釈AI」といった関連構想も示されていますが、これらの開発時期や実装内容は今回の発表時点では確定していません。

出典

  1. Sapeetと仰星監査法人、監査支援AI第二弾「査閲AI」を共同開発

AI Topica 編集部