解説
GoogleのAIが学校に浸透、成績急落の実像とPISA調査が示すもの
宿題や作文をAIに任せれば時間は浮きます。しかし、その分だけ考える力が育つとは限りません。GoogleのAIが学校教育に広く浸透する中で、まさにその疑問を裏付ける数字と証言が報じられています。
何が起きたか
学校に通う子どもたちに学習用ノートPCやChromebookが配布されることが一般的となり、調べ物や学習のサポートにAIが広く使われています。こうした中、GoogleのAIが教育現場に深く浸透する一方で、子どもの認知機能や成績に悪影響が出ているとして、保護者や教師の反発が強まっているとウォール・ストリート・ジャーナルが報じました。
OECDが2025年に91カ国・76万人の15歳の生徒を対象に実施した国際学習到達度調査(PISA)では、平均スコアが過去25年で最低となりました。米国では読解力スコアが前回調査(2022年)と比べて14ポイント低下しています。作文など特定の課題でAIを使ったと回答した生徒は、AIをまったく使わなかった生徒と比べて科学の成績が平均で約20ポイント低くなり、これは1年分の学習に相当する差だと報告されています。
アメリカで3番目に大きな学区であるマイアミ・デイド郡では、10万5000人以上の高校生にGoogleのAIチャットボット「Gemini」の提供が2025年に始まりました。導入後の授業では、優秀な成績を取っていた生徒まで不合格になる事例が相次ぎ、教師が衝撃を受けたと伝えられています。
こうした流れを受け、2026年にニューヨーク市長に就任したゾーラン・マムダニ氏は9月2日、小中学校でのAI利用を1年間にわたり原則禁止すると発表しました。対象となる子どもは60万人に上り、障害を持ちAIが必要な生徒には例外が認められるものの、教員による事務作業などを除けば授業での利用は認められなくなりました。
背景・解説
PISAとは、OECDが3年ごとに実施する国際的な学習到達度調査で、各国の15歳の読解力・数学・科学の力を比較するために使われてきた指標です。今回の報告で、OECDはソーシャルメディアやスマートフォンとともにAIを読解力低下の一因として挙げています。
興味深いのは、AIの利用そのものが一律に悪影響を及ぼしているわけではない点です。学習支援のためにAIを毎日使っていても、AIリテラシー研修を受けた生徒はAIをまったく使わない生徒よりわずかに成績が良くなりました。ただし、そうした研修を受けられる生徒は裕福な家庭出身の傾向が見られたとされており、AIの恩恵を受けられるかどうかは家庭環境の差に左右されている可能性が報告の中で指摘されています。
Googleは長年、学校への普及をブランド構築の足がかりと位置づけてきました。Chromebookや教育ソフトウェアとの連携を通じ、記事作成時点で世界中の1億7000万人以上の生徒・教師にAIツールを提供しています。教育者向けのフェローシッププログラムや、6000人以上の教師からなるインフルエンサーネットワークの運営など、教育現場への浸透策は多岐にわたります。
一方でGoogle自身も、リスクを認識していた形跡があります。2024年に発表された『The Ethics of Advanced AI Assistants』という報告書では、50人以上のGoogleの研究者や倫理学者が、話しやすく擬人化されたAIは特に子どもにとって危険だと指摘し、「知的関心の低下」「自己効力感の低下」「社会的堕落」を引き起こすと警告していました。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのハムサ・バスタニ教授は、課題が負担に感じられた瞬間に生徒はAIという近道に頼りやすくなり、幼い子どもほど影響が深刻になると述べています。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
企業の人材育成担当者は、AIを使わせることよりも「使わせ方」の設計に時間をかけるべきです。PISAの結果が示すのは、AI利用そのものではなく、ガイドなしで答えだけを得る使い方が成績低下に結びついているという構図です。例えば、従業員80人規模のIT企業で新入社員研修を担当する人事担当者が、資料作成の課題をAIに丸投げしてよいと黙認すれば、1年後には自力で提案書の骨子を組み立てられない社員が増えます。逆に、AIが出した下書きのどこが根拠薄弱かを指摘させる研修を週1回でも組み込めば、同じAI利用時間でも身につく力は変わってきます。
マイアミ・デイド郡の事例は、数万人規模で一斉にAIツールを配布した結果として読み取れます。企業研修でも、ツール導入の規模だけを先に決めて使い方のルールを後回しにすると、同じ失敗を繰り返しかねません。中堅企業の研修企画担当者であれば、AIの利用を禁止する必要はありませんが、課題の答え合わせにAIを使わせる前に、自分で一度考えさせる工程を挟むべきです。
ニューヨーク市の1年間禁止という判断は極端に見えますが、見方を変えれば「使い方のルールが整うまで止める」という選択です。社内でAIツール導入を検討する担当者は、全社展開の前に一部門で試し、成果物の質が落ちていないかを数週間単位で確認する工程を設けるだけで十分です。
不確かな点・注意
PISA調査が示す相関関係は、AI利用と成績低下が同時に起きているという事実であり、AIの利用が直接の原因だと断定したものではありません。AIリテラシー研修を受けた生徒の成績がわずかに良かった点についても、家庭の経済状況という別の要因が影響している可能性が報告内で触れられており、研修の効果だけを切り出して評価するのは難しい状況です。
記事の内容はウォール・ストリート・ジャーナルの取材に基づくもので、Googleの現従業員・元従業員への聞き取りや同社発表の研究論文レビューが根拠とされています。Google側の公式な反論や説明がどこまで記事に反映されているかは明確ではありません。また、紹介されている個別の生徒・保護者・教師の証言は個別の事例であり、全国規模での統計として一般化できるかどうかは慎重に見る必要があります。