GMO不正アクセスが問うAI対AI攻防、企業に迫る防御体制の見直し
取引先や顧客の情報を預かる企業にとって、他社の情報漏えいは「対岸の火事」ではありません。GMOインターネットグループへの不正アクセス問題は、攻撃側と防御側の双方でAIが使われる時代の危うさを浮き彫りにしました。
この記事の要点
何が起きたか
ネットサービス大手のGMOインターネットグループへの不正アクセス問題は10月27日、新たな段階に入りました。攻撃者とみられる声明と、利用者情報とされるデータがネット上で公開されたためです。
今回の事案では、口座の不正操作が報告され、その継続や利用者のパソコンに対する攻撃が予告されています。データを暗号化して使えなくし、盗んだ情報の公開も脅しに使う「二重恐喝」と呼ばれる手法に近い状況で、バックアップでシステムを復旧できても、流出した情報の公開や悪用までは防げません。
GMOは10月24日、攻撃側のシステムを無害化する「能動的サイバー防御」の適用を政府に緊急要請したと発表しています。警察などが攻撃用サーバにアクセスし、不正プログラムを停止・削除するこの措置は、10月に規定が施行されたばかりでした。
情報セキュリティ大手トレンドマイクロのエバ・チェンCEOは10月19日の記者会見で、「盗まれた個人情報は、さまざまな攻撃の始まりにすぎない」と警告しています。個人情報が別の犯罪集団に売られ、詐欺や企業への侵入に使われることを念頭に置いた発言です。
背景・解説
「二重恐喝」とは、データを暗号化して使えない状態にした上で、盗んだ情報の公開を脅しの材料にも使う攻撃手法を指します。身代金を払わせる目的に加え、情報を外部に売り渡す目的も併せ持つため、企業側がバックアップだけで対処しきれない点が厄介です。
「能動的サイバー防御」は、攻撃を受けてから守るだけでなく、攻撃元のサーバに踏み込んで無害化する考え方です。日本では10月に関連規定が施行され、警察などが不正プログラムを停止・削除できるようになりました。ただし発動には生命や財産への重大な危害を防ぐ緊急の必要性などの要件があり、原則として独立機関の事前承認も必要です。英米が先行してロックビットのような犯罪集団のシステムを掌握してきたのに対し、日本の制度はより慎重な手続きを前提にしています。
今回の問題で浮かび上がったのは、AIが攻撃側・防御側双方の道具になっている実態です。チェン氏は流出情報の分析や攻撃の自動化にAIが使われると指摘し、不自然な日本語で見破れていた詐欺メールも自然な文章になった結果、「日本語の壁」が崩れたと語っています。一方のトレンドマイクロも、攻撃の早期発見や対処の判断にAIを活用していると説明しており、サイバー空間の攻防は「AI対AI」の局面に入っています。
仕事や業務への影響
取引先の個人情報を扱う企業ほど、流出後の対応まで含めた備えを見直す必要があります。例えば、従業員50人規模の通販事業者が決済代行会社のシステムを利用している場合、自社のサーバーが無事でも、委託先からの情報流出で顧客への説明責任を負う立場になります。バックアップによる復旧だけを対策の柱にしている会社は、その前提を疑うべきです。
AIによる攻撃の自動化は、詐欺メールの見分け方という従来の社員教育を通用しにくくします。情報システム担当が1人しかいない中小企業であっても、不自然な日本語を手がかりにした注意喚起だけでは不十分になりました。これからは、AIを使った監視ツールの導入や、認証の強化といった技術的な対策を併用する必要があります。
政府による無害化措置は、企業の防御を肩代わりしてくれるものではありません。能動的サイバー防御には発動要件があり、事前承認の手続きも伴うため、個々の企業が被害を受けた瞬間に即座に動く性質のものではないからです。従業員300人規模の製造業が取引先から個人情報を預かっている場合、委託元・委託先の双方で監視体制と連絡体制を事前に取り決めておくことが、被害拡大を防ぐ最も現実的な手段です。流出が起きた後の顧客対応窓口をあらかじめ用意しておく企業と、そうでない企業とでは、問題発覚後の信頼回復のスピードに差が生まれます。
不確かな点・注意
今回のGMOへの攻撃で、AIが実際に使われたかどうかは明らかになっていません。トレンドマイクロのチェン氏の指摘は、サイバー攻撃全般における傾向として語られたものです。
攻撃者とされる声明や公開された利用者情報についても、内容の真偽や範囲は本記事の時点で確定した事実として記されていません。被害の全容は今後の調査や公式発表を待つ必要があります。
能動的サイバー防御がGMOの要請に対してどのように適用されるか、適用された場合にどの程度の効果を上げるかも、現時点では示されていません。制度自体が10月に施行されたばかりで、運用実績の蓄積もこれからです。
出典
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