仕事への影響
富士通がバリュープライシング導入 IT営業と調達担当の評価軸が変わる
ITサービスの見積書に「工数×単価」としか書けなかった時代が終わろうとしています。富士通が示した新しい料金モデルは、ベンダーの営業担当者だけでなく、発注側で契約書を読む情シス・調達担当者の仕事のやり方にも関わってきます。
何が起きたか
富士通が、ITサービスの料金形態を従来の人月計算から提供価値に基づく「バリュープライシング」へ転換する方針を明らかにしました。同社CROの大西氏は、AI時代に顧客が求める価値はサービスの提供量や工数だけでは測れないと説明し、開発費や工数を基準にしてきた「コスト積算型プライシング」が限界に来ていると述べています。「人月モデルのままでは株価は上がらない」という発言も紹介されました。
新しい料金モデルは大きく2種類です。導入効果やKPI達成、納期短縮などの成果に連動して課金する「アウトカムベース」と、利用量の増加に応じて収益が拡大する「ユーセージベース」です。前者はコンサルティング領域、後者はアプリケーションやAIプラットフォームなどの領域に適用が進められています。具体的な課金の種類としては、共同事業の成果を分配する「プロフィットシェア」、納期短縮の効果に課金する「エクスプレスサービス」、コンピューティングリソースの利用量に応じた「段階別従量課金」などが挙げられました。
同社は2026年7月から、価値の評価や価格設計を担う「AIプライシングCoE」と現場の「業種イネーブルメントチーム」を連携させる新しい取り組みを始めています。バリュープライシングの比率は、2025年度の20%から2030年度に60%、2035年度には80%まで引き上げる目標です。
背景・解説
プライシングとは、単なる値付けではなく、製品やサービスの価格を戦略的に設定・管理するプロセスを指す言葉です。これまでSI(システムインテグレーション)事業の多くは、開発にかかった工数や人数を基準に価格を決める「人月モデル」で運営されてきました。作業量が多いほど請求額が増える仕組みで、顧客にとっても見積もりの比較がしやすい面がありました。
これに対しバリュープライシングは、提供したサービスがもたらした成果や事業への貢献度を基準に価格を決める考え方です。今回のアウトカムベースはその代表例で、KPIの達成度や納期短縮といった「結果」に対して料金を設定します。一方のユーセージベースは、システムやAIエージェントの利用量に応じて課金する仕組みで、使うほど収益がベンダー側に積み上がる構造になります。
記事では、こうしたビジネスモデルの転換は富士通に限らず、ITサービスを提供する全てのベンダーに求められている課題だと位置づけられています。ユーザー企業側も、この仕組みを理解して活用することがROI(費用対効果)につなげる要件になると指摘されています。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
IT営業担当者は、見積書に工数と単価を並べるだけでは提案が通らなくなります。まず求められるのは、顧客の事業成果とどう連動する料金モデルにするかを説明できる力です。情シス・調達担当者も、複数社の提案を「総額の安さ」だけで比較する評価軸から、「成果指標をどう定義し、どう測定するか」を交渉する役割へと変わります。
例えば従業員300人規模の製造業で、情シス担当者が2人しかいない会社が基幹システムの刷新をベンダーに発注する場面を考えます。これまでなら、複数社から届いた工数見積もりの総額を比較すれば済みました。しかし成果連動型の契約になると、「稼働開始までの期間を何カ月短縮できたら、いくら追加で支払うのか」「目標のKPIに届かなかった場合、減額はどの程度か」を契約前にすり合わせる必要が出てきます。担当者が2人しかいなければ、この交渉に割ける時間は限られており、外部の専門家に契約条件のレビューを依頼する会社も増えるはずです。
営業側も、成果を測る指標を自社の実績データで示せなければ、価格交渉の土台に立てません。工数見積書を出すだけの提案は、価値の説明が弱いと評価される場面が増えていきます。逆に、KPI達成の実績や納期短縮の効果を数値で示せる営業担当者は、価格の主導権を握りやすくなります。調達担当者にとっては、契約書に成果指標と測定方法、未達成時の対応を明記させることが、今後の交渉で欠かせない項目になります。
不確かな点・注意
今回の内容は富士通1社の取り組みとして示されたものであり、他のITベンダーがどの程度追随するかは出典からはわかりません。2030年度に60%、2035年度に80%という目標値も、あくまで富士通が掲げた計画であり、達成できるかどうかは現時点で不明です。
アウトカムベースの課金では、成果やKPIを具体的にどのような基準・算定式で評価するのかという詳細な運用ルールは示されていません。中小規模のITベンダーやユーザー企業に、同じ仕組みがそのまま適用できるのかどうかについても、出典には記載がありません。契約実務に関わる担当者は、個別の契約交渉の中で条件を確認する姿勢が必要です。