仕事への影響
問い合わせ対応担当者の仕事、「書く」から「確かめる」へ変わる
問い合わせ対応の現場では、AIに文章を書かせても結局は社内資料を調べ直して書き直す、という二度手間に悩む担当者が少なくありません。formrunが投入した新機能は、この悩みに「根拠を示す」という形で応えようとしています。
何が起きたか
株式会社ベーシックは2026年10月13日、フォーム作成ツール「formrun」の「AIメールアシスタント」を刷新し、新機能「AIメールエージェント」の提供を開始しました。
この機能は、自社のナレッジと、formrunに蓄積された過去の問い合わせ・返信のやり取りを参照して返信の下書きを作成するものです。下書きには参照した根拠(ナレッジや過去のやり取り)もあわせて表示されるため、担当者は内容を確認したうえで送信するだけで対応を完了できます。
従来の「AIメールアシスタント」は問い合わせ内容のみを参照していたため、生成される文章は一般的な内容にとどまり、担当者は結局調べ直して書き直す必要がありました。新機能では、ヘルプページ・料金表・利用規約・社内マニュアルなどを登録しておくと、AIがそれらを踏まえた下書きを作成します。
提供対象はformrunのBEGINNERプラン以上を利用する企業です。料金はオプション機能として、ライトプラン(月額9,800円・税抜、下書き生成月200回まで)と使い放題プラン(月額19,800円・税抜、回数無制限)の2種類が用意されています。
背景・解説
formrunは、フォームを起点に問い合わせや営業対応などの業務を管理するツールです。企業の窓口に届いた問い合わせは、カード形式で一覧・管理でき、そこから返信を作成する流れになっています。
問い合わせへの返信は、自社サービスの仕様や料金、過去の対応方針などを踏まえて書く必要があります。そのため担当者は返信のたびにヘルプページや社内ドキュメント、過去の対応履歴を探し、「以前似た問い合わせにどう答えたか」を確認してから文面を作成しています。
生成AIを使った返信下書き機能自体は目新しいものではありません。しかし、問い合わせ内容だけを材料に文章を生成する方式では、出てくるのは自社の実情を反映しない一般的な文章にとどまりがちでした。結果として、担当者はAIの下書きが正しいかどうかを確かめるために、結局は自分で資料を調べ直すことになり、時短にはつながりにくいという課題がありました。今回の刷新は、参照する情報源を自社のナレッジと過去の対応履歴にまで広げ、根拠を可視化することで、この二度手間を減らそうとするものです。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
この機能が変えるのは「文章を書く時間」ではなく「確認する作業の中身」です。これまでの問い合わせ対応は、資料を探す→文章を考える→送る、という3段階でしたが、下書きと根拠が同時に出てくることで、担当者の仕事は「根拠を照らし合わせて確認する→送る」の2段階に近づきます。書く作業自体がなくなるわけではなく、確認作業の質と速さが実務上の焦点になります。
例えば、SaaS企業でカスタマーサポートを3人体制で担当している会社なら、新人担当者が料金プランの問い合わせに答える際、従来はベテランに確認するか社内マニュアルを自分で探す時間が必要でした。下書きに根拠が表示されれば、新人でもベテランと同じナレッジを起点に回答案を作れるため、対応の品質差が縮まります。これは、属人化していた一次対応の底上げに直接つながる変化です。
一方で、チーム全体の工数削減効果は、ナレッジがどれだけ整備されているかに左右されます。ヘルプページや社内マニュアルが古いまま放置されている企業では、AIが古い情報を根拠に下書きを作ってしまい、確認作業がかえって増える恐れがあります。導入を検討する企業は、機能を使い始める前に、料金表やFAQなどの基本情報を棚卸しする作業を済ませておくべきです。これを怠ると、月額9,800円からのオプション料金を払っても、期待した時短効果は得られません。
もう一つの実務上の論点は、送信の最終判断が引き続き担当者に残る点です。AIが自動で送信することはなく、確認は人が行う設計になっています。つまり、この機能は「人を介さない自動返信」ではなく、「人の確認作業を軽くするための補助」と位置づけるのが実態に近い理解です。問い合わせ件数が月数百件を超えるような企業ほど、根拠確認の時間短縮効果は積み上がりやすくなります。
不確かな点・注意
今回の発表は機能の仕様と料金体系を示すものであり、実際の対応時間がどの程度短縮されるかを示す具体的な数値は示されていません。導入企業ごとの効果は、登録するナレッジの量や質、問い合わせ件数によって変わってくるとみるのが自然です。
また、下書き生成の回数上限(ライトプランは月200回まで)を超える問い合わせ量がある企業は、上位プランへの切り替えが必要になる点にも注意が必要です。参照する過去のやり取りの精度や、誤った過去対応が再び下書きに反映されるリスクについては、発表資料からは確認できません。導入を検討する場合は、まず自社のナレッジ整備状況とプランごとの料金・回数上限を照らし合わせて判断する必要があります。