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未解読エニグマ暗号、OpenAIとAnthropicのAIが解読
80年近く誰にも解けなかった暗号を、AIはどうやって解いたのでしょうか。答えの一部が、第二次世界大戦中に使われたエニグマ暗号の未解読メッセージという意外な題材から見えてきました。人間の専門家が数週間かけていた資料調査を、AIが自律的にこなした今回の事例は、社内の地道な調査業務のあり方にも関わってきます。
何が起きたか
2人の暗号解読研究者が、OpenAIとAnthropicの大規模言語モデルを使って、これまで解読されていなかった第二次世界大戦中のエニグマ暗号メッセージを2件解読したと明らかにしました。開発者のカーター・レフェン氏は、OpenAIの最新モデル「Astra」に、未解読メッセージのデータベースを調べて1件を解読するよう指示しただけだったといいます。Astraは自ら資料を調べて手がかりを見つけ出し、エニグマ暗号機を模したシミュレーターまで作り上げ、2005年から誰も解けなかったメッセージの平文を復元しました。
暗号解読の記録や資料をまとめたサイト「Crypto Cellar」を運営する、退職した電気技師のフローデ・ヴァイエルード氏が、この解読結果を検証しました。結果を「畏敬の念を覚えた」と評したといいます。ただしヴァイエルード氏によると、Astraのログには彼が公開していない「私的なコレクション」への言及があり、モデルがそこに実際にアクセスしたのかどうかは判然としないままです。
さらに9月21日には、別の研究者ジャック・ウィリス氏がAnthropicの「Claude Opus 5」を使って、また別の未解読メッセージを解読したとヴァイエルード氏に報告しました。ウィリス氏はレフェン氏よりも多くの手がかりを事前に与え、ある将校の署名の特徴を突き止める形で解読に至ったとされています。ヴァイエルード氏によれば、未解読のエニグマ暗号は残り7件、平文は判明しているものの暗号自体が解けていないメッセージが1件あるといいます。
背景・解説
エニグマとは、ナチス・ドイツが第二次世界大戦中に軍事通信の暗号化に用いた機械式暗号装置のことです。アラン・チューリングらのチームは、この暗号を解読するための初期の計算機「ボンブ」を開発し、連合国側の情報戦を支えました。しかし当時解読できなかった、あるいは記録の誤りなどで復元できなかったメッセージが、資料として現在も残されているといいます。
今回話題になったAstraとClaude Opus 5は、単に暗号文を入力すれば答えが出る仕組みではありません。モデル自身が関連する公文書や研究資料を検索し、文脈から手がかりを集め、必要に応じてエニグマ暗号機の動作を再現するプログラムまで組み立てたうえで、解読作業を進めたとされています。人間の研究者が数週間から数カ月かけて行うような資料調査と試行錯誤を、モデルが自律的にこなした形になります。
チューリングにまつわる有名な試験といえば、人間と機械の会話を区別する「チューリングテスト」ですが、彼自身が現実に直面していたのはエニグマ解読というもう一つの試験でした。今回の事例は、その現実の試験でも人工知能が結果を出し始めたことを示す出来事です。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
資料調査を伴う専門的な下調べ業務は、担当者の人数が少ない部署ほどAIエージェントに任せる価値が大きくなります。例えば、法務部員が2人しかいない中堅メーカーで、過去の契約書や社内規定を横断的に調べて論点を洗い出す作業に毎回3日ほどかかっているなら、同様の自律探索型AIに一次調査を任せることで、その時間を数時間から半日程度に圧縮できます。
今回の事例が示すのは、モデルに完成した答えを与えるのではなく、目的だけを伝えて資料探索や検証手段の構築までを任せられる段階に来ているという点です。レフェン氏がAstraに与えた指示は「未解読メッセージを探して解けば良い」という程度だったにもかかわらず、モデルは自らエニグマ機のシミュレーターまで作成しました。同じ発想は、社内に散らばる古い議事録や取引記録から特定のパターンを見つけ出す調査業務にも応用できます。
ただし今回も、結果を最終的に確定させたのは人間の専門家でした。ヴァイエルード氏による検証を経て初めて解読結果が認められた経緯を踏まえると、業務にAIの自律調査を取り入れる際も、成果物を鵜呑みにせず、当該分野に詳しい担当者が最終チェックを行う体制が欠かせません。数十年分の資料を扱うような調査業務であっても、最終確認の工程は省略すべきではありません。
不確かな点・注意
今回の内容は、2人の暗号解読研究者による報告をもとにしたもので、査読された論文などの形で公表されたものではありません。Astraがどのようにして非公開の資料に言及したのかについては、ヴァイエルード氏自身も「アクセスしたかどうかは分からない」と述べており、公文書館の公開情報を参照した可能性を含めて特定できていません。
また、ウィリス氏がClaude Opus 5を使った事例では、将校の署名という手がかりを事前に与えるなど、レフェン氏のケースより人間側の関与が大きかった点にも留意が必要です。解読された事例は現時点で2件にとどまり、残る未解読メッセージは7件、平文が既知で暗号のみ未解決のものが1件あるとされていますが、この状況は今後変わる余地があります。