解説
GPUを待たせない「AIファブリック」、基幹網で鍛えた分離分散技術が土台に
GPUクラスタを数百台、数千台とつなぐネットワークは、なぜ一瞬の遅延も許されないのでしょうか。日本ドライブネッツが10月7日に開いた事業戦略説明会では、通信事業者の基幹網で培った技術がAIデータセンター向けの「AIファブリック」にどう生きるのかが語られました。
何が起きたか
日本ドライブネッツは10月7日、報道機関向けの事業戦略説明会を開催しました。社長の井上雅雄氏は自社について、通信事業者やAIデータセンター向けに大規模なネットワークを構築・運用するための「ハードウェア」「ソフトウェア」「ソリューション」を提供する会社だと説明しました。長年ハードウェアとソフトウェアが一体だった大型ルーターを分離し、標準的な汎用ハードウェアの上でソフトウェアを動かす取り組みを、ネットワーク業界にとっての大きな変化と位置づけています。
DriveNetsは2016年にイスラエルで創業し、現在はイスラエル、ルーマニア、米国、日本の4カ国に拠点を持ちます。従業員は世界で700人以上、うち約75%がエンジニアという構成です。日本法人は2021年8月に設立され、都内に専用ラボを構え、NECネッツエスアイ、伊藤忠テクノソリューションズ、NTTアドバンステクノロジの3社をパートナーとしています。
同社は現在「サービスプロバイダーネットワーキング」と「AIファブリック」の2つのソリューションに注力しています。大手通信事業者のコアネットワーク刷新で得た実績を、急成長するAIデータセンター向けの事業に生かす形です。日本市場では2025年5月にKDDIと戦略的パートナーシップを締結し、ピアリングルーターやコアルーター、エッジルーターでの商用展開を進めているほか、アグリゲーションルーターやAIデータセンタルーター・スイッチなどへの展開も計画されています。
背景・解説
記事の主題である「ディスアグリゲーション」とは、これまでハードウェアとソフトウェアが一体で提供されてきたルーターを分離し、汎用の「ホワイトボックス・スイッチ」の上に独自のネットワークOSを載せて動かす考え方です。日本ドライブネッツはこのOSを「DNOS(DriveNets Network Operating System)」と呼び、コントローラチップやASIC、光トランシーバーなど各社のコンポーネントとの組み合わせを自社で確かめたうえで提供しています。シニアセールスエンジニアの佐々木俊輔氏は、部品を買い集めて動かすのが自己責任になりがちなディスアグリゲーションと違い、組み合わせの検証から導入支援、導入後のサポートまで窓口を一本化している点を強調しました。
DNOSのもう一つの特徴が「分離分散型」のアーキテクチャーです。機能ごとに分割したホワイトボックス群をクラスターとしてまとめ、全体を仮想的な1台の大型ルーターのように動かす構成を取ります。この仕組みは、止めることが許されない通信事業者の基幹網で実際に鍛えられてきました。2020年に導入した米AT&Tでは、現在トラフィック全体の80%超を同社のルーターが処理し、設備投資額は従来の10分の1に抑えられたといいます。しかも検証環境ではなく、全米規模の商用網で6年以上大きなトラブルなく稼働し続けている点が強調されました。米ケーブル事業者のCOMCASTでも、コアやアグリゲーション、ピアリング、メトロエッジなど役割の異なる複数のルーターを単一のホワイトボックス機種に統一し、在庫管理や運用の負担を軽減した実績があります。こうした「止められないネットワークを、標準ハードウェアと共通OSでまとめて動かす」発想が、GPUを大量に並べて稼働させるAIファブリックの土台にそのまま応用されている構図です。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
GPUクラスタの新規構築を検討する企業は、ネットワーク部分を特注品に頼る発想を見直すべきです。例えば、自社でGPUサーバーを数百台規模で導入し始めた製造業の情報システム部門が5人程度の体制だったとすると、機種ごとに個別最適化されたネットワーク機器を運用管理する余力は限られます。基幹網で実績を積んだディスアグリゲーション型の構成なら、複数の役割のルーターを少ない機種に統一でき、在庫や運用の手間を減らせます。
通信事業者のKDDIがピアリングルーターへの導入を2023年6月に開始し、コア・エッジルーターへと段階的に商用展開を広げている事実は、ネットワーク刷新を一度に全面展開するのではなく、重要度の低い箇所から始めて実績を積み上げる進め方が現実的であることを示しています。AIファブリックの導入を検討する企業の担当者も、まずは影響範囲の小さい部分で検証を重ね、段階的に対象を広げる計画を立てるのが現実的です。全面導入を急ぐよりも、着実な置き換えのほうが結果的に投資対効果を見極めやすくなります。
不確かな点・注意
今回の説明会で具体的に語られたのは主にサービスプロバイダー向けネットワーキングの実績であり、AIファブリックそのものの技術仕様や性能数値、具体的な導入事例は明らかにされていません。GPUクラスタ向けにどのような構成や機能が提供されるのかは、現時点では分かりません。
AT&Tの「設備投資10分の1」やトラフィック処理比率80%超という数値は、あくまで同社固有の事例であり、他の通信事業者や企業のネットワークにそのまま当てはまる保証はありません。KDDIにおけるアグリゲーションルーターやAIデータセンタルーター・スイッチへの展開も「計画されている」段階にとどまり、具体的な導入時期や規模は公表されていません。AIファブリック事業の国内での具体的な顧客名や導入実績についても、現時点の説明会資料からは確認できません。