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仕事への影響

手書きコードが例外になった開発現場、プログラマーの仕事は「監視」に変わる

手でコードを書かなくなったプログラマーは、いったい何をしているのでしょうか。Ruby on Rails作者のDHH氏が2026年9月の基調講演で語った内容は、開発会社だけでなく、自社でシステムを内製する企業の管理職にも関係する話です。

何が起きたか

Ruby on Railsの作者であるDHH(デイビッド・ハイネマイヤー・ハンソン)氏は、2026年9月23日に米オースティンで開かれたRails World 2026のオープニング基調講演で、「ほとんどの会社のほとんどのプログラマーにとって、手でコードを書くことは、もはや経済的に生産的な行為ではない」と発言しました。

自身が率いる37signals(Basecampやメールサービス「HEY」の開発元)では、手でコードを書くことを通常業務としてやめ、「Pencils Down(鉛筆を置く)」と呼ぶ運用に切り替えたといいます。手書きは全面禁止ではなく、バグを見つけたときと同じ「例外的な状態」として扱う位置づけです。

数値の自己申告としては、2026年8月の1カ月で15万行のコードを本番投入し、それまでの年平均は約3万行だったと述べています。過去21年の仕事の半分以上はRubyのコードだったものの、今年はRubyの比率が約3%まで下がったともしています。講演後のXポストでは「ソフトウェアを作る未来はこれまで以上に明るい」と続けています。

背景・解説

DHH氏のいう「Pencils Down」とは、実装の手順を人間が細かく指示するのではなく、問題や望む成果そのものをエージェント(人間の指示を受けて自律的に作業を進めるAI)に渡す開発スタイルを指します。DHH氏は2025年11月24日登場のClaude Opus 4.5を、この移行の境目として挙げています。

講演でDHH氏は、写真の大衆化によって肖像画家が職人技では食べていけなくなり、印象派など絵画にしかできない方向へ進んだ歴史をたとえに使いました。プログラミングにとってのカメラの登場が、今起きている変化だという主張です。

失敗談も語られています。2026年春、Basecamp 5の仕上げでデザイナーがVibe Coding(AIの出力を細かく読まず雰囲気で進める開発)で機能を作った際、個々の変更提案はもっともらしくても、まとめるとアーキテクチャが穴だらけになりました。当時37signalsは手動レビューに戻す判断をしましたが、DHH氏は今それを「間違った結論だった」と振り返っています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

社内に開発チームを抱える企業ほど、プログラマーの評価基準を書き換える必要があります。例えば、従業員80人ほどのITベンダーで、社内システムの保守運用を担うエンジニアが5人いる会社なら、その5人に求める成果指標を「書いたコード行数」や「対応チケット数」から、「エージェントが出した成果物をどれだけ短時間で正しく見抜けるか」へ切り替えるべきです。

DHH氏が示したのは、人間の仕事が「コードを書く」から「コードを生み出す仕組みを直す」へ移るという整理です。具体的には、エージェントに渡す指示ファイルやテストの仕組み(講演内では「機械」「製造ライン」と表現)を整え、うまくいかなければそこを直して再実行する役回りです。これは、手を動かす作業の減少ではなく、判断の対象が変わるという話として受け止めるのが妥当です。

経営層にとっての実務的な論点は、評価制度の見直しと採用基準の2つです。コード行数のような従来指標だけで評価を続けると、エージェントの出力をチェックする力を持つ人材を正しく評価できません。例えば、開発部門が10人規模で、うち若手3人が入社2〜3年目というシステム会社なら、若手向けの研修内容を「手で書く練習」中心から「AIが出したコードの妥当性を見抜く訓練」中心へ数カ月単位で組み替える検討が必要です。

もう一つの論点は、Railsのような「設定より規約」を重視した基盤の選び方です。DHH氏はディレクトリ構造や命名が統一された基盤は、エージェントへの指示が少なくて済むためトークン(AIが消費する処理量)の効率が良いと説明しています。開発基盤を選ぶ際の判断材料として、人間の書きやすさだけでなくエージェントとの相性を加える企業が増えていくはずです。

不確かな点・注意

講演で挙げられた「15万行」「約3万行」「約3%」といった数値は、いずれもDHH氏個人の自己申告であり、測定方法は示されていません。厳密な生産性の証明ではなく、変化の規模感を伝える数字として読む必要があります。

メールサービス「HEY」の後継「HEY Next」をRust製バックエンドで作り直している件も、講演時点で着手から約1週間のデモ段階にとどまり、CPU使用量99%減・メモリ使用量95%減という数値も概算です。

また、海外ではBasecamp 5の逸話について「より強いモデルが個々の提案を書いても、全体を誰が所有するのかという問題は解決しない」という批判が出ています。手でコードを書いた経験のない若手がどうやってレビューの目を養うのかという懸念も指摘されており、この点について講演内で直接の言及はありません。日本では「Rails終了宣言」と受け取る反応も広がりましたが、講演の主題はRailsの終わりではなく開発者の仕事の変化です。

出典

  1. Rails作者DHH「Pencils Down、もう手でコードは書かない」 それでもソフトウェア開発の未来は明るい理由

AI Topica 編集部