解説
AI攻撃が増えても防御側が有利な理由とAIの使いどころ
AIを使った攻撃が増えているなら、守る側はますます不利になる――そう思われがちですが、実際には逆の見方を示す専門家がいます。経営者や実務責任者にとって、どこにコストと手間をかければ効果が出るのかを知るヒントになります。
何が起きたか
2026年夏ごろから、サイバー攻撃による情報漏えいを公表する国内企業が相次いでいます。背景の一つとして指摘されているのが、攻撃者によるAIの利用です。直近ではプログラミング言語「PHP」の脆弱性について、AIを使った攻撃者による悪用に注意するよう、米OpenAIなどが呼び掛けました。
こうした中、クラウド型WAFを開発するビットフォレストは10月14日、攻撃元がAIエージェントかどうかを判定する仕掛けをWAFに組み込んだと技術ブログで報告しました。同社は、日本企業のWebサイトへのAIエージェントによる攻撃を、少なくとも3つのIPアドレスから確認したといいます。この仕掛けを考案したのは、同社取締役でWAFの開発責任者を務める佐藤匡氏です。
佐藤氏は取材に対し、「長い目で見たら、防御側の方が有利だと思う」と語りました。攻撃がAIによって増えているとされる中、この見方は意外に感じる読者もいるはずです。
背景・解説
WAF(Webアプリケーションファイアウォール)とは、Webサイトへの不正な通信を検知し遮断する仕組みです。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)など、既知の攻撃パターンを見分けて防ぐ役割を担っています。
佐藤氏が防御側の有利を説く根拠は、AIが攻撃手法そのものを変えていない点にあります。同氏によれば「AIが新たな攻撃ジャンルを生み出した、ということは実はない」といいます。AIが得意なのは、既知の脆弱性がシステムのどこに潜んでいるかを見つけ出す作業です。従来の攻撃ツールも大量のリクエストを繰り返し送りますが、AIは無駄なループを見極めてページを遷移し、改めて探索するなど「賢くループ」します。その結果、雑なスキャンでは見つからなかった弱点が掘り起こされるようになりました。
裏を返せば、脆弱性のないシステムを実現できれば、どんな攻撃が来ても侵害されないことになります。そして脆弱性を見つけて潰す作業は、守る側もAIに任せられます。佐藤氏が「一番良い方法」として挙げるのは、コードベース全体の脆弱性チェックです。新機能実装の差分だけでなく、Webサイトのコード全体をAIに読ませて確認させることで、網羅的な調査ができます。ブラックボックス型のペネトレーションテストもAIで実行可能で、攻撃に関わる依頼を拒否しがちなクラウド型のモデルではなく、オープンウェイトモデルをローカルで動かすのが向いているといいます。佐藤氏は「もともとセキュリティにきちんとお金をかけていた企業は全然やられていない」と強調し、被害が出ているのは脆弱性に気付かないままインターネットに公開していたケースが多いとみています。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
脆弱性診断とコードレビューをAIに継続的にやらせている企業ほど、今回のようなAI攻撃の波に強くなります。例えば、従業員80人の人事労務SaaSを運営する企業で、情シス担当が1人しかいない場合を考えてみます。この担当者が機能追加のたびに、AIにコードベース全体を読ませて脆弱性の有無を確認させ、別のAIモデルにもう一度チェックさせる運用を回せば、人手だけでは難しかった網羅的な点検を繰り返し実施できるようになります。
AIエージェントによる攻撃かどうかを見分ける仕組みは、通信の分析には役立ちますが、防御の判断材料としては主役になりません。攻撃の多くがすでにAIを使っているため、「攻撃してくるものは全部止める」という従来の方針に変わりはないからです。投資余力のある企業は、ベンダーによる脆弱性診断を使うのが確実です。一方、予算やベンダーの手が足りない企業ほど、AIによる脆弱性スキャンを自社の点検作業に組み込む価値があります。コストをかけずに何度でも繰り返せる点が、AIを使った点検の強みになるからです。
不確かな点・注意
佐藤氏は、AIによるレビューを繰り返せば「おそらく、本当に脆弱性がないシステムにできる」と述べていますが、これは断定ではなく見通しにとどまります。実際にどこまでの精度でAIが脆弱性を見つけられるかは、システムの複雑さによって変わってくるはずです。
また、脆弱性診断を専門ベンダーに依頼する「王道」の対策も、インシデントが相次ぐ今はベンダー側のリソースが不足している可能性があると佐藤氏は指摘しています。AIエージェントと判定した通信を一律に遮断する選択肢も紹介されていますが、正規ユーザーがAIエージェント経由でサービスを使う場面が今後増えるため、中長期的には有効な策ではないといいます。どの程度の企業が実際にAIによる脆弱性チェックを導入しているかなど、普及状況を示すデータは出典に示されていません。