仕事への影響
ペット用品企業の発注・在庫管理担当者、AI需要予測で月23時間の手作業が大幅減
発注量を決めるのは、もう勘と経験だけではありません。ペットフード・ペット用品をEC・通販・店舗・法人営業で扱う現場で、AIが出した予測値を人が確認する仕事のやり方が動き出しました。品切れと売れ残りの板挟みに悩む在庫担当者にとって、仕事の中身そのものが変わる可能性がある取り組みです。
何が起きたか
AI CROSS株式会社は、ペットフード・ペット用品の企画・販売を手がける株式会社カラーズに、AI需要予測・運用サービス「Deep Predictor」を2026年10月より提供開始しました。対象となるのは、EC・通販・店舗・法人営業の4事業部にまたがる商品の発注・在庫管理業務です。これまで経験と勘に頼っていた需要予測を、AIによる予測値を踏まえた判断に切り替えます。
カラーズではこれまで、各販売チャネルの担当者が表計算ソフトで実績データを集計し、経験をもとに発注量を決めてきました。しかし、予測の根拠が担当者の経験に依存して属人化しやすいことに加え、データの集計・振り返り・予測作成に月あたり約23時間の手作業がかかっていたといいます。販売チャネルごとに予測の進め方も異なっていたため、全社共通の仕組みづくりが課題になっていました。
導入に先立つ実証実験(PoC)では、自社の実際の販売データを用いて予測精度と業務への効果を検証し、年間約1,300万〜3,000万円規模の経済効果が見込めるとの試算が得られました。この結果を踏まえ、カラーズは本格導入を決定したといいます。
背景・解説
AI需要予測とは、過去の販売実績などのデータをもとに、AIが将来の売れ行きを数値として算出する仕組みです。従来の発注業務では、担当者が売上データを集計し、季節性や過去の傾向を踏まえて「おそらくこれくらい売れるだろう」という感覚的な判断を加えて発注量を決めるのが一般的でした。
ペットフードは毎日の食事に欠かせない商品であるため、品切れを起こせば飼い主の不安に直結します。一方で、賞味期限があるため多めに仕入れれば廃棄のリスクが高まります。「欠品を防ぎたい」と「在庫を持ちすぎたくない」という相反する要請の両立は、ペット業界に限らず多くの小売・メーカーに共通する課題として知られています。
今回導入された「Deep Predictor」は、AI CROSSが提供するサービスで、「あらゆる予測を、誰でも簡単に」をコンセプトに掲げています。実績データを取り込めば数クリックでAIの予測値が自動で出力され、担当者は内容を確認するだけで済む運用を目指して設計されているといいます。カラーズは2026年10月からの本格運用を通じて既存商品での効果を検証し、過去の販売実績がない新商品にも活用範囲を広げていく予定です。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
発注担当の仕事は、数字を「作る」作業から、AIが出した数字を「確認し、判断する」作業へと重心が移ります。これまで表計算ソフトとにらめっこしながら集計していた時間が、確認作業に置き換わるという意味です。
例えば、従業員30人規模のペットフード卸で発注担当が2人いる会社を想定すると、月23時間相当の集計・振り返り作業が削減される効果は、1人あたり月10時間以上の余裕に相当します。これは単純な時短にとどまらず、担当者が欠勤や異動をしても業務が止まらない体制づくりにつながります。属人化していた発注ノウハウが仕組みに置き換われば、新しく配属された担当者でも一定水準の発注判断がすぐにできます。
経済効果の内訳にも、見ておくべき点があります。年間1,300万〜3,000万円という試算は、在庫の適正化によるフードロス削減分と、業務効率化による工数削減分を合わせたものです。発注担当者にとって重要なのは、この効果が「売れ残りの廃棄コストが減る」ことと「自分の作業時間が減る」ことの両方から生まれている点です。どちらか一方だけを追う施策より、現場の納得感は得やすくなります。
食品や日用品など、賞味期限や使用期限がある商材を複数チャネルで扱う卸・小売業にも、今回の構図はそのまま当てはまります。チャネルごとに発注ルールがバラバラで、担当者の経験に頼っている会社ほど、AI需要予測を導入したときの業務改善の幅は大きくなるはずです。逆に、すでにデータに基づく発注ルールが全社で統一されている会社なら、導入による業務時間の削減効果は限定的です。
不確かな点・注意
公表されている年間1,300万〜3,000万円の経済効果は、カラーズの過去の販売データを用いた実証実験(PoC)に基づく試算値であり、実際の本格運用後の効果を保証するものではないと明記されています。上限値は直近の販売傾向を重視した条件での試算とされており、どのような条件で下限値・上限値が決まったかの詳細は公表されていません。
市場環境や運用条件の変化によって、本格運用後の効果が試算と異なって現れる可能性がある点にも注意が必要です。また、過去の販売実績がない新商品への活用は今後の展開として挙げられているだけで、実際にどのような手法で予測するのかはまだ示されていません。月23時間という工数削減の数値が、4事業部全体のものか、特定の部門のものかについても明確な記載はありません。