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解説

COBOLはなぜ消えないのか、AIが変え始めた基幹システム移行の現実

銀行のATMや航空システムの裏側で、なぜ60年以上前のプログラム言語が今も動き続けているのでしょうか。その答えと、AIが状況をどこまで変えられるのかを整理します。

何が起きたか

OpenAIは10月19日、最新のAIモデルが古いプログラム言語で書かれたソフトウェアを現代的なコードへ移行する精度で「大幅な改善」を遂げたと発表しました。対象にはCOBOLが含まれており、同社は企業の「旧システムの保守・近代化」を支援できると説明しています。

発表によれば、COBOLをC++やJava、Kotlin、Python、Rustへ移行する際、元のソフトウェアの挙動を変えずに済むかどうかを測る「動作保持精度」で、新モデルのGPT-6.1 Solは推論の負荷が低い条件でも87%を記録し、推論を強めると98%まで上昇しました。比較対象として挙げられたGPT-6 Astraは低負荷で86%、GPT-6 Solは21%、GPT-5.6 Solは5%にとどまったといいます。

Anthropicも2月、COBOLをJavaやPythonへ移行する手順をまとめた「コード近代化の手引き」を公開し、コーディング支援ツール「Claude Code」の活用を提案しました。具体的な性能数値は示されていませんが、「COBOL近代化の経済性は変わった」と主張しています。この発表の後、旧システムの保守支援で収益を得てきたIBMの株価が急落したと報じられています。

背景・解説

COBOLとは「Common Business-Oriented Language」の略で、1959年に生まれた業務処理向けのプログラム言語です。誕生から約70年が経った現在も、世界の重要インフラの土台として残り続けています。

IBMの推計によれば、COBOLはオンラインバンキングシステムの40%以上を支え、対面でのクレジットカード決済の80%、ATM取引の95%を処理しています。銀行や決済網だけでなく、社会保障やIRS(米内国歳入庁)、多くの州が運営する行政サービスなど、政府系システムの基盤にもなっています。COBOLの非効率性が米国のGDPに与える年間損失は、ある試算で約1050億ドルに上るとされています。

それでも置き換えが進まないのは、これらのシステムがあまりに重要で、壊すリスクを誰も取りたがらないためです。加えて、COBOLを理解できるプログラマーの多くがすでに引退したり亡くなったりしており、コードを読める人材自体が減っています。同様の事情は、気象予測や海洋研究、核安全保障に関わる計算で今も使われるFortranにも当てはまります。AIによるコーディング支援は近年の一般的なソフトウェア開発では大きく進んだものの、こうした旧システムの領域ではこれまで目立った成果を上げてこられませんでした。今回の発表は、その状況に変化の兆しが見え始めたことを示しています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

基幹システムを抱える企業ほど、AIによるコード移行は「調査の入り口」として使う価値があります。ただし、現時点でAIに丸ごと任せられる段階ではありません。例えば、勘定系の一部をCOBOLで動かしている地方銀行のシステム部門が10人規模だとすれば、まずはAIに一部の周辺モジュール(数千行程度の規模)を試験的に移行させ、既存システムと同じ結果が出るかをテストする、という使い方が現実的です。

経営層が意識すべきは、移行の「速さ」よりも「検証の仕組み」です。OpenAIが示した87〜98%という数値は、あくまで限定された評価環境での動作保持精度であり、実際の業務システムがそのまま同じ水準で動く保証にはなりません。例えば従業員300人規模の航空会社が予約システムの一部をAIで移行する場合も、移行後のコードを旧システムと並行稼働させて同じ入力に対して同じ出力が出るかを一定期間チェックする体制が欠かせません。

情シス部門にとっては、AIを「コードを書く人」ではなく「下訳を作る人」として位置づけるのが現実的です。残りの確認と判断は、依然として人の仕事として残ります。

不確かな点・注意

専門家の見方は慎重です。オランダ・トゥエンテ大学のヴァディム・ザイツェフ氏は「コードを書き換えることと、システムを置き換えることは同じではない」と指摘しており、見たことがある最大のシステムは2億5000万行のCOBOLコードだったといいます。コードの複雑さに加えて、データ形式や他システムとの連携、利用者側の期待など考慮すべき要素は多岐にわたります。

デルフト工科大学のアリー・ファン・ドゥールセン氏は、OpenAIの発表を「表面的」だと評し、示された評価は比較的単純で定義の明確な作業にとどまり、実際の近代化作業とは「光年単位」の差があると述べています。巨大なシステムを置き換え可能な小さな単位に分解する難しさには触れられていない、という指摘です。

インペリアル・カレッジ・ロンドンのアラステア・ドナルドソン氏は、最大の課題はコードの書き換えそのものではなく、システムがどう動いているかを理解する人材の不足にあるとしています。移行前後でわずかな挙動の違いも許されない場面が多く、新旧システムを同じ処理で動かして比較するテストや、人による検証が引き続き不可欠だとされています。ザイツェフ氏は、仮にAIがコードの99%を処理できたとしても、残る1%が数百万行規模で各所に散らばり、気づきにくい不具合を生み得ると警告しています。

出典

  1. Can AI help solve the COBOL code crisis?

AI Topica 編集部