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解説

AI利用コストは年13倍で下落 それでも性能が落ちない理由

AIの利用コストは、Epoch AIとMITの調査によれば過去に例のない速さで下がっています。ただし価格が下がった分だけ自社のAI予算が減るとは限らず、どの性能水準で満足するかを見極めないと判断を誤ります。

何が起きたか

AIの動向を追う研究機関Epoch AIが、特定のベンチマークで一定の成績を出すのにかかる費用の推移を分析しました。2023年以降、その費用は四半期あたり平均で約47%下落し、年間では約13倍のペースで安くなっているといいます。Epoch AIは、これまで登場したどの技術よりも速い下落だと指摘しています。

具体例として挙げられているのがOpenAIのo3です。2025年初め、o3は科学分野の難問集GPQA Diamondで75%の正答率を出すのに1問あたり約30セントかかりました。その約18か月後、GPT-5.6系のモデルは同じ正答率を1問0.04セントで達成し、費用は725分の1に下がったといいます。記事の数日前にはOpenAIがさらに費用を抑えたとされるGPT-6 SolとLunaを投入しており、差はさらに広がったと記事は伝えています。

一方、MITの研究者チームは比較サイトArtificial Analysisの2024年4月から2025年11月までの価格データを使い、同様の下落幅を年5倍から10倍と算出しました。Epoch AIの数字とはやや開きがあります。

背景・解説

ここでいう費用とは、モデルを1回呼び出すたびに課金される「トークン」という文字の単位をもとに、一定の正答率を得るのに必要な合計額を指します。近年主流になった「推論モデル」は、答えを出す前に内部で長い思考の連鎖を生成するため、1問あたりのトークン消費量が増える傾向があります。単価そのものが下がっても、難しい問題を解くために使う量が増えれば、1問あたりの実費はむしろ上がることもあります。

MITのハンス・グンドラック氏らのチームは、価格下落の要因を「ハードウェアの低価格化」「企業間の価格競争」「純粋なアルゴリズムの効率化」の3つに分解しました。競争の影響を取り除くためオープンモデルだけを別に分析した結果、アルゴリズムの効率化そのものによる下落分は年約3倍にとどまるとしています。Epoch AIの年13倍という数字は、ハードウェアや競争の効果を差し引いていない市場価格そのものの下落率であり、両者は測っているものが違うため単純には比較できません。

もう一つ押さえておきたいのが「ベンチマクシング」という問題です。AI企業が有名なテストの点数を上げることだけを狙って調整すれば、実務での使い勝手が伴わないまま数字だけが良く見えてしまいます。Epoch AIは、事前に内容が公開されていない「Mystery Game Puzzles」というテストを分析に加え、この対策を試みています。このテストでは費用の下落が他より緩やかで、ベンチマクシングの存在を示唆する結果になっています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

ベンチマークの価格が急落しているからといって、自社が支払うAI利用料が同じ比率で安くなるとは限りません。読者が判断すべきは「どの水準の性能で十分か」という一点です。

例えば、従業員80人のコールセンター委託会社で、月間10万件の問い合わせ対応を自動化しようとしている部長がいるとします。昨年時点の最高性能モデルと同程度の正答率で十分な業務なら、その水準に到達するための費用は大きく下がっており、導入コストを抑えられます。一方、常に「今出ている最新最高性能」のモデルを使い続ける前提で予算を組むと、推論に使う計算量が増える分、費用はむしろかさむ計算になります。

モデル選びでは、価格だけでなく正答率・応答速度・扱える文章量も合わせて比較すべきです。価格表の一番安い数字だけを見て契約すると、実際の業務では速度不足や精度不足に悩まされることになります。

不確かな点・注意

Epoch AIは分析対象を数学・科学・論理パズルなど5種類のベンチマークに絞っており、自ら「十分だが粗い推計」と位置付けています。対象が少ないため、業種ごとの実務作業にそのまま当てはめられる保証はありません。

記事内で触れられているGPT-5.6やGPT-6 Sol、GPT-6 Lunaといったモデル名は、出典記事の記述をそのまま伝えたものです。編集部が独自に実在や仕様を確認したものではなく、名称の扱いには注意が必要です。

Epoch AIとMITの数字は算出方法が異なるため、どちらか一方だけを「正しい下落率」として扱うのは避けるべきです。ベンチマクシングの有無についても、Mystery Game Puzzlesの結果だけでは断定できず、出題形式やデータのばらつきが影響した可能性も残ります。

出典

  1. AI performance costs are falling faster than those of any previous technology

AI Topica 編集部