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解説

AI禁止の教室はなぜ成績最下位になるのか、2年間の追跡調査でわかったこと

「業務でAIを使わせない」というルールを敷いている職場は少なくありません。ある大学の2年間にわたる授業実験は、この方針が学習効果を下げる恐れを具体的な数字で示しました。人材育成やOJTの設計を考える管理職にとって、無視できない材料です。

何が起きたか

ある大学の授業で、学生を3つのグループに分けてAIの使用可否を変えた実験が行われました。1つ目のグループはChatGPTの使用を禁止され、2つ目のグループはAIが生成した修正案が本文に直接組み込まれた状態でツールを使い続けられるものの使い方の指導は受けませんでした。3つ目のグループは、法律文の推敲に関する実践的なプロンプトの使い方と、AIの提案を整合性・正確性の観点で確認する訓練を受けています [1]。

全グループが同じ試験、すなわち多肢選択式のテストと、AI法(AI Act)の別条項を修正する持ち帰り試験を受けました。実験は2024年に66人を対象に実施され、2025年には164人に規模を広げて再度行われています [1]。

結果は一貫していました。AI使用を禁止されたグループは、2024年・2025年のどちらでも最下位に終わっています。訓練を受けたグループは2024年には他の2グループを大きく上回っていましたが、2025年にはその差がほぼ消え、3グループの成績はほぼ同水準になりました [1]。

研究を行ったシュレペル氏にとって意外だったのは、訓練を受けずにAI提案を無批判に受け入れていた2つ目のグループの結果でした。授業中には誤った用語をそのまま残す様子が見られたにもかかわらず、試験ではその誤りが再現されず、禁止グループよりわずかに高い点数を記録しています [1]。

背景・解説

この実験でいう「訓練」とは、AIへの指示の出し方(プロンプト)と、出てきた提案の妥当性を自分で確認する技術を教える取り組みを指します。一方「禁止」は、ツール自体へのアクセスを断つ方針です。多くの企業や教育現場で採られてきた「まずは自力でやらせる」という考え方は、後者に近いものです [1]。

シュレペル氏は当初、AIは体系的な訓練とセットでなければ授業に持ち込むべきではないと考えていたといいます。しかし2つ目のグループの結果を見て、その前提は誤りだったと認めています。学生は実際にAIを使う経験を通じて、正確性が結果に直結する場面ではAIの弱点を自ら見抜くようになるというのが、氏の説明です [1]。

2025年に訓練の効果が薄れた理由についても言及があります。学生の多くがすでに日常的にチャットボットを使うようになっており、正式な訓練が2024年ほどの上乗せ効果を持たなくなったという見立てです。ただし倫理的な使い方や法的責任の教育は引き続き必要だとも述べています [1]。

この結果は、大学によって対応が分かれている点にも意味を持ちます。ある法科大学院はほぼ全ての成績評価対象からAIを排除する方針を取っており、将来の法律家はAIを役立てる前にまず基礎的な思考力を身につけるべきだという立場です。シュレペル氏の調査結果は、理由を問わずAIを教室から締め出すこと自体が学生を不利にするという点で、この立場と正面から食い違っています [1]。

また、AIの効果は監督の有無によって変わるという別の研究にも触れられています。50万件超の成績データを扱ったある調査では、ライティングやプログラミングを重視する授業でA評価の割合がChatGPT登場後に13ポイント上昇した一方、監督下の試験では同様の変化は見られませんでした。26,000人超の児童・生徒を追った別の調査でも、AIは宿題の点数を押し上げる一方で試験の点数を最大24%押し下げるという、監督の有無で正反対の結果が出ています [1]。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

「AI禁止で基礎力を鍛える」という発想は、少なくともこの実験の範囲では期待した効果を生みません。例えば、新入社員研修で契約書レビューを担当させる法務部が「まずはAIなしで下書きさせる」という方針を採っていた場合、その方針自体が育成効果を下げている恐れがあります。訓練なしでAIを使わせたグループが、禁止グループより良い結果を出した点は、監督者が過度に手順を統制する必要はないことを示しています。

一方で「訓練さえすれば差が開き続ける」とも言い切れません。2024年に大きかった訓練グループの優位は、2025年にはほぼ消えています。例えば、50人規模の経理部門でAIチェックの研修を昨年実施済みの会社なら、今年は同じ研修を繰り返すより、正確性の検証手順そのものを業務フローに組み込む方が投資対効果は高くなります。研修一発で差を作る時代は終わりつつあり、日常的な使用経験の蓄積が実力差を埋めていくと見るべきです。

管理職が最初に見直すべきは「使わせない」というルールの是非です。営業資料の下書きや議事録の要約でAI利用を制限している部署があるなら、まずは訓練よりも「使いながら確認させる」実務を優先すべきです。監督下の試験と監督なしの提出物で効果が逆転するという指摘も踏まえれば、成果物の種類ごとにAI利用の可否を分けて設計するのが現実的な対応になります。

不確かな点・注意

この実験の対象は66人、翌年は164人と、企業規模の研修に比べれば小さな集団です。参加者はAI関連の授業を選択した学生であり、平均的な学生よりもAIに慣れている可能性がある点は、著者自身が限界として認めています [1]。

持ち帰り試験でどの程度AIが実際に使われたかは確認する手段がなく、申告や推測に基づく分析にとどまります。この点は結果の解釈に注意が必要な部分です [1]。

対象は法律文の推敲という特定の課題であり、法科大学院では方針が逆に厳格化されている例もある通り、あらゆる業務や教育分野に同じ結論が当てはまるとは限りません。監督下の試験と監督なしの課題では効果が逆転するという別の調査結果もあり、成果物の種類によって最適な運用は変わってくる点を念頭に置くべきです [1]。

出典

  1. Two-year university study finds banning AI from classrooms leaves students worse off

AI Topica 編集部