解説
AIエージェントに「自社の仕事」を教える鍵は社内ナレッジ整備にあり
AIエージェントを入れただけでは、社内の仕事のやり方は変わりません。判断基準や経緯、担当者の勘どころといった「自社ならではの知識」をAIが参照できる形にしておくかどうかで、成果は大きく分かれます。アビームコンサルティングとNotionの取り組みは、その分岐点を示すものです。
何が起きたか
生成AIによる回答支援や文書作成にとどまらず、業務の状況を判断して必要な作業を自律的に進める「AIエージェント」への期待が高まっています。一方で、AIエージェントを導入すれば、そのまま企業の業務が変わるわけではないという指摘があります。
AIが企業固有の業務を担うには、業務手順や判断基準、過去の経緯、担当者の経験則などをAIが参照できる状態にしておく必要があります。ところが、こうした情報は社内の複数のシステムや文書に分散していたり、暗黙知として個人に蓄積されていたりするケースが少なくありません。
こうした課題を受けて、アビームコンサルティングとNotionは、企業ナレッジを起点にAIを前提とした業務・組織運営への転換を支援する取り組みを打ち出しました。
背景・解説
まず押さえておきたいのが「企業ナレッジ」という言葉の中身です。ここで指されているのは、単なる社内文書やマニュアルではありません。誰がどんな条件でどの提案を優先してきたか、過去に似た案件でどう判断したか、例外的な対応をどう処理してきたかといった、業務の背景にある判断の積み重ねを含みます。営業なら顧客情報の検索だけでは足りず、「この条件ならどの提案を優先するのか」という判断基準そのものが必要になります。人事や経理、法務でも、手順書だけでなく、判断の理由や例外対応の経緯が問われる場面は多いはずです。
こうした知識がマニュアルやデータベースにきちんと整理されていれば、AIエージェントに参照させることは比較的容易です。しかし実際には、会議での議論や過去の資料、担当者個人の経験の中に埋もれていることが珍しくありません。いわゆる「暗黙知」と呼ばれる状態です。
この暗黙知が整理されないままAIエージェントを導入すると、AIが参照できる情報は限定的なものにとどまります。結果として、個別の業務効率化にはつながっても、組織全体の仕事の進め方を変えるところまでは届きにくくなります。汎用的なAIの性能をいくら高めても、企業固有の文脈が抜け落ちていれば、AIエージェントは「その会社の仕事」を代行できません。ここに、社内ナレッジの整備がAI活用の前提条件として位置づけられる理由があります。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
AIエージェントの効果は、導入するツールの性能よりも、社内にどれだけ整理された判断基準が残っているかで決まります。例えば従業員50人ほどの製造業で、見積もり条件の判断が特定のベテラン営業担当者1人の頭の中にしかない会社があるとします。この状態でAIエージェントに見積もり業務を任せても、参照できる材料がなければ、AIは定型的な文書作成程度の役割しか果たせません。
逆に、過去の商談で「どの条件ならどの提案を優先したか」を数十件分でも文書やデータベースに残しておけば、AIエージェントはその情報を踏まえた提案の下書きや優先順位付けを担えるようになります。経理担当が2人しかいない中小企業でも、月次の例外処理の判断理由をあらかじめ記録しておけば、AIエージェントに一次チェックを任せる余地が生まれます。
つまり、AIエージェント導入の準備として最初にやるべきは、高機能なツールの選定ではありません。社内に散らばる判断基準や経緯を洗い出し、誰が見ても分かる形に書き起こす作業です。これを後回しにしたまま導入を進めても、個別業務の小さな効率化にとどまり、業務全体の進め方を見直すところまでは到達しません。逆に言えば、ナレッジ整備に投じた時間は、AIエージェントの成果を左右する投資になります。
不確かな点・注意
出典の記事は、アビームコンサルティングとNotionが企業ナレッジを起点とした取り組みを打ち出したという事実を伝えるものであり、具体的な製品仕様や提供時期、料金体系までは明らかにしていません。どのような業種・規模の企業を対象に、どの程度の期間で成果が出るのかも記事からは分かりません。
また、社内ナレッジの整備にどれくらいの人手や時間がかかるのかという実務上の負担についても、出典には具体的な記載がありません。導入を検討する企業は、まず自社のどの業務にどれだけ暗黙知が偏っているかを棚卸しし、その規模感を踏まえて取り組みの範囲を決める必要があります。効果を見極めるには、続報や具体的な導入事例の公表を待つ姿勢が求められるでしょう。