仕事への影響
経営企画・情シス必見 AIトークン支出の8割が成果に未結合、鍵は使用責任の明確化
生成AIの利用が広がるほど、社内のトークン費用は静かに膨らんでいきます。その支出が実際にどれだけ事業成果につながっているか、経営企画や情報システム部門が説明できる会社は多くありません。
何が起きたか
アクセンチュアが日本を含む世界17か国の企業を対象に実施した調査によると、AI活用の拡大に伴い増えているトークン支出のうち、8割が明確な事業成果に結びついていないことが分かりました。定量的な財務成果との関連を証明できている支出は2割未満にとどまり、自社にとって最も重要なAI活用事例についてさえ、成果に対するコストを算出できている企業は35%にとどまっています。
一方で、使用責任の明確化やモデルルーティング、AI活用案件の可視化を徹底すれば、今後2年間で見込まれるトークンコストの増加を最大44%抑制できる可能性があることも示されました。AI支出のうち財務的成果との関連を証明できる割合についても、60%高められる可能性があるといいます。
調査対象企業の3社に1社は、すでに年間のトークン予算を超過しており、経営層は今後2年でトークン消費量が78%増えると見込んでいます。トークン価格が25%以上下がった場合でも、コスト削減ではなく利用拡大を選ぶと答えた経営層は95%に達しました。有効性が認識されているモデルルーティングも、実際に導入している企業は30%にとどまっています。
背景・解説
トークンとは、生成AIが文章を処理する際の最小単位の課金対象で、利用量に応じて費用が積み上がっていきます。モデルルーティングは、依頼内容に応じて処理を最適なAIモデルへ自動で振り分ける仕組みです。アクセンチュアの試算では、最先端の高性能モデル(フロンティアモデル)の能力を本当に必要とするタスクは全体の1割程度にすぎませんが、実際にはAIリクエストの54%が、必要水準を上回る高性能モデルに振り分けられているといいます。
チャージバックは、AIの利用量に応じて費用を各部門に配分する社内課金の仕組みです。この調査は、年間売上高10億米ドルを超える企業の経営層750名を対象に2026年7月に実施され、あわせてFortune 500企業のリーダー15名への詳細インタビューも行われました。トークン支出の管理責任について、専門チームを備える企業は37%にとどまり、48%の企業ではIT部門と財務部門に管理責任が分かれています。
仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方
経営企画・情報システム部門は、AIコストを「使った量」ではなく「誰が何のために使い、何を生んだか」で管理する体制に切り替えるべきです。例えば、従業員500人規模の製造業で情報システム部門が5人程度の会社なら、まず社内の主要なAI活用案件を10件程度に絞り込み、案件ごとに責任者・使用モデル・想定コスト・期待する成果を一枚の台帳にまとめることから始めれば十分です。
モデルルーティングの導入は、コスト圧縮という意味だけでなく、社内の説明責任を果たすための土台になります。調査では、AIリクエストの54%が過剰に高性能なモデルに振り分けられているとされており、この比率を見直すだけでも支出の伸びを抑えられます。例えば、経理部門で請求書の分類や定型メールの下書きに高性能モデルを使っている会社があれば、その業務を低コストのモデルに切り替え、契約書レビューなど複雑な判断が必要な業務にだけ高性能モデルを残す運用に見直すべきです。
使用責任の明確化も避けて通れない論点です。調査では、AIコストの管理責任がIT部門と財務部門に分散している企業が48%にのぼり、責任の所在があいまいなまま支出だけが膨らむ構図が浮かびます。営業企画やマーケティングなど利用部門ごとにコストを紐づけるチャージバックの仕組みは、導入企業がわずか7%にとどまっていますが、部門別の損益管理をしている会社であれば、既存の予算管理プロセスにAIコスト項目を一行追加するだけで着手できます。
トークン価格が下がっても支出削減より利用拡大を選ぶ経営層が95%に達している以上、コストの伸びを前提とした管理体制の構築は先送りできない課題です。案件の可視化、モデル割当の最適化、使用責任の明確化という3点を、四半期ごとの棚卸しの中に組み込むだけで、投資対効果の説明力は大きく変わります。
不確かな点・注意
今回の調査対象は年間売上高10億米ドルを超える企業の経営層が中心で、中小企業における実態は示されていません。日本企業に限った内訳の数値も公表されておらず、国内の中堅・中小企業に同じ傾向が当てはまるとは限らない点に注意が必要です。
コスト増加を「最大44%抑制できる」「財務成果との関連を60%高められる」といった数値は、あくまで可能性として示されたものです。実際の効果は、各社が使用責任の明確化やモデルルーティングをどこまで徹底できるかによって変わってきます。
また、フロンティアモデルの能力を要するタスクが全体の1割程度という試算は、米労働省のO*NETデータベースに基づく職務タスクの分析から導かれたものであり、業種や職種ごとの実態とは異なる場合があります。導入を検討する際は、自社の業務特性に照らして数値を鵜呑みにしない姿勢が求められます。