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仕事への影響

空調機の「検図」をAIが自動照合、設計者の仕事は例外判断と最終承認へ

図面と設計基準書を照らし合わせる「検図」は、空調機設計の品質を左右する地味だが重い作業です。この工程がAIに置き換わるとき、設計者の1日の使い方はどう変わるのでしょうか。ABEJAと新晃工業の取り組みは、その具体像を映し出しています。

何が起きたか

ABEJAは新晃工業と共同で、セントラル空調機の設計段階における品質向上を目的に、設計図面と設計基準書をAIが自律的に照合・検証し、設計の妥当性を検知して設計者に提示する「自動検図システム」の検証を開始しました。

本システムは、事前にデータ化した設計基準書と、設計者が作成したCAD等の図面をAIが照合・検証し、検知した不備や再発リスクを設計者に提示するものです。図面をアップロードするだけで、AI自身が図面内の寸法や部品配置を読み取り、複数の設計基準書を横断して設計基準との適合性を確認します。基準値や設計ルールとの不整合をAIが検知・判定し、修正推奨箇所を提案する仕組みです。

さらに、AIによる提案に対して設計者が評価やフィードバックを行うことで、その知見をシステムが蓄積・学習し、検図精度や回答の信頼性を段階的に高めていく「Human in the Loop」のアプローチを採用しています。ABEJAは2024年9月にも新晃工業に対し、AIとLLMを用いた設計サポートシステムを提供しており、今回の取り組みはこの延長線上に位置づけられています。今後は実際の設計業務プロセスでの検証を通じて精度を高めるとともに、想定されるトラブルのリスクと設計図面を連動させて二重に警告する仕組みの開発・導入も進めるとしています。

背景・解説

「検図」とは、設計者が作成した図面が社内の設計基準や過去のトラブルから得られたノウハウに適合しているかを確認する工程です。空調機のように建物ごとに要件が異なるカスタム性の高い製品では、細部にわたる綿密な検討が求められ、検図は品質を守る最後の砦になります。

新晃工業は、大型ビルや工場、病院・学校などで使われるセントラル空調機器の総合メーカーです。顧客ごとに異なる要求に応じた製品設計が価値の源泉であるため、設計業務の質がそのまま事業の競争力に直結します。一方で、人手による検図はミスや見落としを完全には防げず、機器の運用開始後しばらく経ってから設計起因の不良が判明することもありました。原因を分析すると、過去のトラブルで得た知見が図面作成の段階で反映されていなかった事例も見られたといいます。

ABEJAはこれまでLLMを用いた対話型の検索システムも手がけてきましたが、対話型は設計者が能動的に疑問を検索する必要があるため、設計者自身が気づいていない見落としを防ぎにくいという課題がありました。今回の自動検図システムは、この課題に対応するため、対話に頼らず自律的に照合まで完結させるAIエージェントとして構築されています。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

空調機設計の現場では、検図という照合作業に費やしてきた時間が減り、設計者はAIが拾い上げた例外事項の判断と最終承認に力を注ぐ働き方へと移ります。これまでは図面全体を一から目視で確認し、基準書と突き合わせる作業そのものに多くの時間が割かれていました。AIが照合の一次処理を担うことで、設計者の手元に残るのは「本当に判断が必要な箇所」だけになります。

例えば、従業員50人規模の空調機器メーカーで、設計者5人が1件あたり2時間かけて検図を行っている会社であれば、AIが基準書との照合を先に済ませることで、設計者の作業は不備候補の確認と承認判断に絞られます。10件の案件を抱える月であれば、検図に費やしていた時間の多くが、顧客要件のすり合わせや新規案件の設計そのものに振り向けられることになります。

もう一つの変化は、熟練者の暗黙知の扱い方です。これまでベテラン設計者の頭の中にあった「過去にこの部品配置でトラブルが起きた」といった経験則は、退職や異動とともに失われるリスクがありました。AIが設計基準書とともにこの知見をデータ化し、設計者のフィードバックを学習して精度を高めていく仕組みは、属人化していた検図ノウハウを組織の資産として残す手段になります。中堅の設計チームであれば、若手が担当した図面でも、ベテランが積み上げてきた注意点を反映した検図結果を先に受け取れるようになります。

管理職にとっての意味も明確です。検図にかかる時間が読みやすくなれば、設計者の稼働計画やリードタイムの見積もりが立てやすくなります。設計部門を抱える企業は、検図を「人が一から確認する作業」ではなく「AIの提示を人が判断する作業」として設計プロセスを組み直すべきです。

不確かな点・注意

今回発表されたのはあくまで検証の開始であり、実際の設計業務での効果や、検図にかかる時間がどの程度短縮されるかは明らかにされていません。精度がどの水準まで高まったら実運用に移行するのか、対象となる機種の範囲をどこまで広げるのかも示されていないままです。

想定されるトラブルのリスクと設計図面を連動させて二重に警告する仕組みや、設計基準書自体が自律的にアップデートされ続ける「持続可能な設計ナレッジの自律循環プラットフォーム」は、将来的な構想として言及されているにとどまり、実現時期は示されていません。導入や運用にかかる費用についても情報が公開されていません。今後、検証の進捗が公表された際に、実際の効果を改めて確認する必要があります。

出典

  1. ABEJA、新晃工業と共同で空調機等の設計業務効率化に向け、AIによる自動検図システムの検証を開始

AI Topica 編集部