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解説

AIトークン料金9割減でも支出増、その仕組みを解説

AIの利用料金は下がっているのに、なぜ社内のAIコストは膨らむのか。情シス担当者や経営層がAI予算を組む際に見落としがちな「価格下落と利用増加の関係」を、ジェボンズのパラドックスという考え方から整理します。

何が起きたか

生成AIの利用が企業の現場で広がるにつれて、AIモデルの処理単位である「トークン」の消費量も増え続けています。効率化の成果とコストの釣り合いをどう取るかが、多くの企業にとって課題になっています[1]。

トークンの利用料金自体は下落傾向にあります。米OpenAIは7月末、AIモデル「GPT-5.6 Luna」のAPI利用料金を80%引き下げ、100万トークン当たりの入力料金を1ドルから20セントに、出力料金を6ドルから1.2ドルに改訂しました[1]。

AIエージェント技術の標準化を目指す団体「Agentic AI Foundation」によると、過去12カ月でAPI利用料金は約90%下落した一方、トークン使用量は50倍に増えたといいます。同団体の共同創業者兼CTOであるマニック・スルタニ氏は8月25日の記者発表会で、「価格崩壊を上回るペースで需要が伸びている」と説明しました[1]。

背景・解説

この「料金は下がったのにコストは増える」現象を説明するキーワードが「ジェボンズのパラドックス」です。19世紀に登場した考え方で、資源の利用効率が上がり価格が安くなると、消費量はむしろ増えてしまうという現象を指します[1]。

スルタニ氏は、石炭や電力、インターネットの普及でも同様のパターンが見られたと述べています[1]。Agentic AI Foundationのエグゼクティブディレクターであるマジン・ギルバート氏は、GoogleでAI・機械学習領域のエンジニアリングディレクターを、米AT&Tで5G計画などを主導してきた経歴を持ちます[1]。

ギルバート氏は分かりやすい例として「データ通信のトラフィック」を挙げました。通信ネットワークの効率化で1GB当たりの伝送コストは下がったものの、利用者はより多くのデータを使うようになったといいます。ストレージも同様で、保存コストが下がったことで企業はデータを削除せず保存し続けるようになり、保管データ量はむしろ大幅に増えたと説明しています[1]。

ギルバート氏は「効率化で単位コストが下がる」「コスト低下が新たな利用方法を生む」「その結果コスト圧縮分を上回るリソースが消費される」という流れがあり、AIも同じ道をたどっている可能性が高いと述べています[1]。

仕事や業務への影響 — AI Topicaの見方

トークン価格が下がるほど、AI活用の裾野は広がり、結果として利用量とコストは膨らみます。単価の下落だけを見て予算を組む会社は、想定より支出が膨らむ恐れが高いです。

例えば、従業員300人規模の製造業で、経理部門の5人がAIエージェントに月次資料の作成や請求書チェックを任せ始めたケースを考えてみます。1件あたりのトークン単価が下がったことで利用範囲を広げ、AIエージェントに任せる業務を月10件から月80件に増やせば、単価が下がっても総支出は増加します。

情シス部門や経営層がまずすべきなのは、トークン単価の推移だけでなく、月間のトークン消費量そのものを継続して記録することです。単価と消費量を両方追わなければ、コスト増の原因を切り分けられません。

オープンソースのAIモデルや安価な他社モデルへの切り替えも選択肢の一つです。ただし、モデルを切り替えるだけでコスト問題が解決するわけではなく、利用範囲や利用ルールの見直しとセットで進めるべきです。

不確かな点・注意

Agentic AI Foundationが示した「90%下落」「50倍増」という数値は、同団体の資料に基づく推計であり、全てのAIモデルや企業に一律に当てはまるとは限りません[1]。

OpenAIの値下げ幅(80%)も特定モデル・特定プランでの事例であり、他のAIサービスの料金体系や下落幅は異なります[1]。

自社のトークン消費量やコスト増減が同じ傾向をたどるかどうかは、業務内容や利用規模によって変わるため、記事内の数値をそのまま自社の見積もりに当てはめることは避けるべきです。

出典

  1. 「AI利用料は90%下落、でも支出増」の怪――AIコスト問題で注目の「ジェボンズのパラドックス」から考える

AI Topica 編集部